永すぎた春に終止符を

「そこからって?」


「だって、頻繁に会うには話を聞く理由がいるだろう?」


「頻繁にって…」


「言葉を変える?付き合ってもらうには…とか」
この人、私に自分の子供を産ませたいって…


「いえ…ちょっと、それはまだ考えていません」
簡単にはいって言ったら、妊娠させられたりして…
逃げよう。


「ちょっと待って。今すぐそんなふうに聞いたりしないから。だからね、会って話をするのに、理由がいるってこと」


「あの…私、失礼します」
強引過ぎてついて行けない。


「立たないで、座って。まだ、ビール一口飲んだだけじゃないか。何でもいいんだ。誰の意見聞きたいとか…ただ、話を聞いて欲しいとか…」
安田さんは、身を乗り出してきた。



「話って言われても…」
逆に梨沙は、後ろに下がって距離を保つ。


「じゃあ、時間切れ。何か食べに行こうか。何がいい?」


「これからですか?えっと…」


「これから?終電なくなるよ。もちろん俺はそれでもいいけど…君、自分で言った意味わかってる?」
保田さんは、優しく笑いかけ、

「今日は止めておこう。俺も心の準備が出来てない」


「ごめんなさい…そういう意味じゃないです」


「わかってるって。それで、嫌いなものは?」


「別にありません」


「わかった。じゃあ、明日出かけよう。とりあえず…携帯貸して」


「ええっ、はい…」


「何にするかはその時まで考えておく。それから、迎えに行くから住所教えて…」


「えっ?ちょっと待ってください」
手を伸ばして携帯をとろうとして、ひょいと届かない位置に持ち上げられた。


「と言っても、もう登録しちゃった。すでに事後報告だね…」


「安田さん、ちょっと待って…」


「大丈夫。付き合ったらゆっくり進めるよ。とりあえず、今日はすぐに家に帰って早く寝よう。明日迎えに行くから、今日はもう帰って寝たほうがいい」


< 47 / 121 >

この作品をシェア

pagetop