永すぎた春に終止符を
彼、吉岡拓海とは、梨沙の高校からの友人、里美を通じて知り合った。里美と梨沙は同じ高校ったけど、里美は優秀な生徒だった。彼女は国立の理工学部に進んで、大学のゼミに入った。そこに拓海がいたのだ。里美も拓海も博士課程にまで進み、去年、拓海は博士論文が通って念願のドクターとなった。
今は期限付きの研究員として大学に残って研究している。ドクターを取るだけでも大変な事なのに、博士になっても、すんなり就職先が見つからないと言われていて、梨沙は驚いた。頭の中身は平凡だった、梨沙の方が就職はすんなりいって、拓海のような優秀な人間が就職に困るなんて、想像できなかった。
拓海から仕事が決まったって聞かされて、すごく喜んだのに、与えられたポストは期限付きで、来年にはまた就職活動をしなければならないと聞かされて、気が重くなった。
梨沙は、さらに里美から大学の研究者の過酷な事情を聴いて、さらに気が滅入った。里美は、拓海が悪いのではなく研究者として大学に残ろうとしたら、珍しいことではないと梨沙に説明した。彼の方が、そんな状態だから、先のことなんか約束できるかってことなんだろうけど。