永すぎた春に終止符を

梨沙は、急いで自分のアパートにたどりつくと、部屋の出窓に、木で出来たサンタクロースのオーナメントを飾った。髭をたっぷり蓄えたおじいさんの表情が気に入って、買ったのだけど重すぎて安っぽいツリーには飾れなかった。梨沙は、自分で飾ったトナカイの隣に置いた。

 四年のうちに、梨沙が犠牲にしたものだって少なくない。
 梨沙は、普通に会社で働いているけれど、拓海は、大学の研究員だ。彼のような研究職の人間は日本中に沢山いて、その人たちと、少ない大学の教員職のポストを争わなければならない。ポストに空きが出て、その職につくまで、学生時代とかわらず安定した収入がないというのだ。いくら優秀でも、空きがなければポストは回ってこない。
 中には、ずっと下働きを続けて、他のアルバイトで生活を支えるなんて人もいると聞く。拓海も大学で職に就きたいと思ってる。修士で就職する人が多い中、彼は、博士課程に進んで就職するのはさらに何年も先になると聞いて、梨沙は驚いた。相談して欲しかったと思ったけれど、もともと彼の将来の事に口を出さないつもりでいたから、梨沙は何も言わないでいた。

2人でいる時は、梨沙が拓海にあわせて来た。拓海の方が年上だけど、働いてる梨沙の方がお金があった。拓海は、研究に時間を使いたいためにアルバイトを最低限にしていたから、かえって学部生の方が生活の余裕があったんじゃないかと梨沙は思った。

 拓海がそんな状態だから、梨沙のような年相応の働いてる女性が行きたいと思う所に、拓海に連れて行って欲しいとは言えなかった。大学院に進学してからは、梨沙が遠慮して行きたいって言えなかった場所は沢山ある。


梨沙は、拓海の留守電にメッセージを残した。

―ー論文書き終えたら、出かけよう
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