永すぎた春に終止符を
 庶務課の打ち合わせのスペースで梨沙は幾美さんと向き合った。幾美さんは、梨沙が一緒に働いてきた中でも、理解のある上司だ。いきなり無茶な事を言い出すわけではないし、間違えたところも懇切丁寧になぜいけないか説明してくれる。

だから、突然話があるなんて、後輩から呼び出されることないんだろうなと梨沙は思う。

幾美さんは、梨沙の分もコーヒーを買ってきてくれていた。

ぽかぽかの打ち合わせスペースに、ふんわりとしたコーヒーのいい匂いがする。

「ありがとうございます」
幾美さんは、梨沙の好みのカフェオレにしておいてくれていた。

「それで、話って?」カフェオレを一口すすった所で、声をかけられる。

「えっと、ですね」
考えて来た事一瞬忘れてしまった。なんて言えばよかったんだっけ。

「いいのよ。ゆっくりで。今のところ落ち着いてるから」

梨沙は、大きく息を吸って呼吸を整えると、もう一度頭を整理した。

「あの……仕事のことなんですけど」

「ええ」

「あの。もう少し私に任せて欲しいと思うんですけど」

「任せて欲しいって?」

「えっと。庶務課に来てからほとんど同じ仕事をしてます。そろそろステップアップしたいと思うんですけど」

「急にどうしたの?」

「ちょっと心境の変化で。仕事に目覚めようと思って」

「そう。気持だけは有難く受け取っておくわ」

「えっと。何でもいいんです。簡単な仕事でも」

「ありがとう。今のところないわ。もし、見つかったら教えるから。今まで通り仕事して」

「はい」
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