さくら色した君が好き
助手席に乗ってカバンを抱き
ゴシゴシと残ってた涙を拭く。
車から聞こえる音楽が切ない。
何だろこれ
お母さんが好きな曲だね。
「音楽って凄いよね」お父さんの優しい声が懐かしい。
さっきまでギスギスして
家の中は叫び声ばかりだったから。
「お母さんは若い頃、このバンドが大好きで追っかけやってたんだよ」
「えっ?そうなの?」
鼻をグズグズさせて聞き直す私。
「だから紅葉の気持ちはわかってる。去年だってね、真駒内行かなかった紅葉を『かわいそうな事させた』って半泣きになってたよ。情けない顔でね、今の紅葉と同じ顔してた」
そうなんだ。
お母さんは胡桃の味方だと思ってた。
「お父さん」
「何?」
「胡桃は私が嫌いなのかなぁ」
口にすると悲しくて胸が押しつぶされそう。
「どうして?」
「だって、私が胡桃の健康を奪って生まれてきたし……」
「それは違うよ」
いつも優しいお父さんが
この時だけは強く言い切る。
「それは違う。紅葉は何も悪くない」
「だって……胡桃は山村君が好きなんだ。山村君は今日一緒に行く男の子。だから胡桃は……」
「胡桃は紅葉が大好きだよ」
「私、嫌われてるよ」
「胡桃は紅葉が大好き」
信号待ちで
お父さんは私の頭を優しくポンポン叩いた。