空って、こんなに青かったんだ。
またまた毎度のごとく、英誠野球部二年生集団は得意の餃子屋さんに集まっていた。
しかし昨晩の活気はどこへやら、まるでお通夜のようなクラさだ。
ブチョウ先生からの説明のあと、いつも通りの練習はしたがマッタク気が入らず早々に切り上げて、選手だけの臨時ミーティングとなった。
「活動はできても試合の采配はどうする?」
「ブチョウ先生は野球、知らないだろ」
「マイッタヨナ~」
みんな困り果てたまま時間だけが過ぎていった。
ブチョウ先生の話では実は半年前にいちど監督さんの父親は倒れたらしい。
家族持ち回りで騙しだまし介護をしていたらしいのだが今回の脳出血で長男である監督が腹を決めたということらしい。実家に戻ることを。
そしてさらにつけ加えるならば教員免許を持つ野球経験者は監督さんしかいないそうだ、英誠学園には。
もう少し説明すると教員資格を持っていなければ高校の野球部の監督にはなれないわけではないのだが、明らかに満っているほうが望ましいし都合がいいのだ。
だれでもいい、ってわけじゃない、カナシイかな。
結局誰も妙案が浮かばずその日はお開きになってしまった。
「とにかく、今まで通り、全体練習と個人練習はしっかりやろう。甲子園には、
絶対に行く。アキラメナイ!」
啓太がみなのショックを和らげようと、あえて鼓舞した。だけどその後、当然のごとくあまり練習に身の入らない日々が怠惰に過ぎたのだが、それから三日後、駿斗から啓太に主だった
メンバーを集めてくれ、と話があった。
急ぎの大事な話だという。さっそく啓太は放課後の練習後、時間を空けておくよう各メンバーにメールを送った。そして六時には「会合」を始めていた。
今日は餃子屋さんではなく駅前の喫茶店に集まった。メンバーは拓海を引っぱった
五人衆のほか、護、サードを守る松本亮太、ショートの小林祐弥、いいだしっぺの駿斗、
そして拓海の十人だった。
まずは腹ごしらえをしてから早々に議題に入った。
駿斗から大体のことを聞いていた啓太がまず全員にことのあらましを話した。
「実はさ、監督不在の件なんだけど、駿斗の親父さんの知り合いで監督を引き受けてくれそうというか、頼めそうな人がいるらしいんだ。社会人野球の名門の出身で都市対抗にも出たことがあるらしい。ただ問題は教員免許を持ってないからあくまで臨時、ということらしいんだ」
そしてそのあと、駿斗からさらに詳しい説明があった。
「このままだとどうしてもダレちゃうと思うんだよね。オレタチだけじゃ。それにどのみちあと一か月で春までは対外試合禁止期間に入るんだから練習試合の采配どうの、ってことはしばらくは気にしなくてもいいと思うんだ。
うちの親父が言うにはお前らも本気で甲子園目指すならやっぱりチャンとした人に基礎から教わったほうがいいんじゃないか?って」
そして杉山父いわく、お前らで決めろ、その気があれば段取りしてやる、とのことらしかった。
「そうか、社会人野球の出身か。いいじゃん」
「都市対抗に出たことあるんじゃ、ホンマモンだな」
「で、どんな人なの?」
「????」
「知らないの?」
「知らない・・・・」
そこでいちど会話が途切れかかったんだけれども
「じゃ、会いに行くか?」
と、勇士のひとことで決まってしまった。まず、会ってみよう。それからだ、と。
それでさっそくその場から駿斗が父親に連絡し、三十分後に折り返しの返事があった。「土曜日の夕方六時に時間もらったから、行ってこい」
と。
そしてそれから、とくに何もない平日が無作為に通り過ぎて土曜日となり
四時に練習は終わった。
啓太、勇士、健大、圭介、駿斗、そして拓海の六人は電車を乗り継ぎ、さらに最寄りの駅から三十分も歩いてやっと目的地近くまでたどり着いた。
「しかし、遠いな」
「これで変なヒトだったらどうする?」
「そんときはことわろ」
「ムリだろ、そんなの」
「杉山の父ちゃんの口利きじゃ、会ったあとやっぱり、ってのはなあ~」
「大丈夫だよ。お前らで決めたことならあとは俺が何とかする、って言ってたし」
「ま、お前の親父さんならそういうだろうな」
そんなことを話しながらやっと向こうに「小島興業」っていう看板が見えてきた。
「あれか?」
「みたいだな」
「なんかちょっと、コワくね?」
六人はその看板を見て少しチビリが来たようだ。
「まさか怖い人じゃないよね?」
「だから知らないって、オレ」
六人は互いに顔を見合わせて立ち止まった。
「どうする?」
「帰る?」
「ばあか、それじゃ駿斗の顔をつぶすだろ」
「たしかに」
「とりあえず、行ってみよ」
啓太のその言葉で六人は看板目指して再び歩き始めた。
近くまで来ると「小島興業」の看板はところどころカケテいた。
大きな門を入ると庭には重機が何台も停まっていてその有様はきちんと「土建屋さん」の雰囲気を醸し出していた。十分すぎるほどに。
その雰囲気に圧倒されてみんなで「どうする?」とモジモジしてると
「どちら様ですか?」
と裏庭から女性が声をかけてきた。啓太が趣旨を伝えるとその女性は
「ああ、英誠学園の生徒さん?うかがってますよ。こちらへどうぞ」
と先に歩いて案内してくれた。六人が通されたところは二階建てプレハブの応接室であった。
そこのソファーにまるで借りてきた猫、のように六人は座った。
いちど姿を消した女性は再び戻るとお茶を運んできてくれた。
緊張で今初めて、マジマジト見ると「ソノヒト」はかなりの、をオオキク通り越して
ブットビ級の美人であった。
美人社員?はお茶をテーブルに置くと
「遠かったでしょ~ご苦労様でした~」
とゴビをオモイッキリ伸ばして六人の顔をひとりひとり、食い入るように見つめた。
そして
「社長はもう少しでまいりますので~」とマタマタゴビを伸ばしたまま行ってしまった。
啓太たちは緊張が解けていっせいにタメ息をついて天井を見上げる。
「奥さんか?」
「従業員だろ?」
「つき合ってるのか?」
「今、かんけーねーだろ?」
勇士の疑問に他の五人が笑った。
するとその時、応接室のドアがいきなり開いて男が入ってきた。
六人はあわてて居住まいを正した。
「おっ、悪かったね、マタして」
男は入るなりそう言うとドカッとソファーに腰掛けた。年のころは四十歳?くらい?
作業着を着たままで、みなが恐れていたアイロン、要はパンチパーマではなかった。
「小島です」
と男は自分の姓を名乗り
「杉山からはいろいろ聞いてるよ」
と穏やかに言った。
そして「楽にしてくれ」と言いさらに「何でも聞いてくれ」とつけ加えた。
なのでキャプテンである啓太があらかじめ六人で決めてきたことをいろいろと質問した。
小島と名乗る男は六人が想像していたよりもずっと紳士的だった。そして三十分くらいそこにいただろうか?六人出されたお茶にほとんど手も付けられずにそこを出た。
シンカントクコウホは何度も
「まあ、飲みなさいよ」とか「コーヒーのほうが良かったかな?」
などと気を遣ってはくれたのだけれど、六人のほうがカシコマッテしまって手をつけられなかったのであった。
今はもう、六人は駅について次の電車を待っているとこらだ。
小島興業を出てから駅までの帰る道すがらで、六人の意見はもう固まっていた。
「頼んでみるか」
「そうだな、悪い人じゃなさそうだ」
「うん、本当はもっと野球のことを話したかったけどな」
「いちばんは、駿斗のオヤジさんの知り合いってことだろ。やっぱ安心できるし」
「だな、それがいちばん」
などと言いながらブラブラ駅まで歩いた。
ちょっと前までの緊張はどこへやら?だ。
そろそろ上り電車が来るようだ、近くで踏切のおりる音がする。
すると圭介がポツリと言った。
「でも肝心なこと、聞き忘れたよね」
「なにを?」
「都市対抗、ホントに出たのか?ってこと」
「だな・・・・」
「タシカニ」
六人はそこで黙り込んで、でも素早く切り替えた。
「コンド、訊こう!」
しかし昨晩の活気はどこへやら、まるでお通夜のようなクラさだ。
ブチョウ先生からの説明のあと、いつも通りの練習はしたがマッタク気が入らず早々に切り上げて、選手だけの臨時ミーティングとなった。
「活動はできても試合の采配はどうする?」
「ブチョウ先生は野球、知らないだろ」
「マイッタヨナ~」
みんな困り果てたまま時間だけが過ぎていった。
ブチョウ先生の話では実は半年前にいちど監督さんの父親は倒れたらしい。
家族持ち回りで騙しだまし介護をしていたらしいのだが今回の脳出血で長男である監督が腹を決めたということらしい。実家に戻ることを。
そしてさらにつけ加えるならば教員免許を持つ野球経験者は監督さんしかいないそうだ、英誠学園には。
もう少し説明すると教員資格を持っていなければ高校の野球部の監督にはなれないわけではないのだが、明らかに満っているほうが望ましいし都合がいいのだ。
だれでもいい、ってわけじゃない、カナシイかな。
結局誰も妙案が浮かばずその日はお開きになってしまった。
「とにかく、今まで通り、全体練習と個人練習はしっかりやろう。甲子園には、
絶対に行く。アキラメナイ!」
啓太がみなのショックを和らげようと、あえて鼓舞した。だけどその後、当然のごとくあまり練習に身の入らない日々が怠惰に過ぎたのだが、それから三日後、駿斗から啓太に主だった
メンバーを集めてくれ、と話があった。
急ぎの大事な話だという。さっそく啓太は放課後の練習後、時間を空けておくよう各メンバーにメールを送った。そして六時には「会合」を始めていた。
今日は餃子屋さんではなく駅前の喫茶店に集まった。メンバーは拓海を引っぱった
五人衆のほか、護、サードを守る松本亮太、ショートの小林祐弥、いいだしっぺの駿斗、
そして拓海の十人だった。
まずは腹ごしらえをしてから早々に議題に入った。
駿斗から大体のことを聞いていた啓太がまず全員にことのあらましを話した。
「実はさ、監督不在の件なんだけど、駿斗の親父さんの知り合いで監督を引き受けてくれそうというか、頼めそうな人がいるらしいんだ。社会人野球の名門の出身で都市対抗にも出たことがあるらしい。ただ問題は教員免許を持ってないからあくまで臨時、ということらしいんだ」
そしてそのあと、駿斗からさらに詳しい説明があった。
「このままだとどうしてもダレちゃうと思うんだよね。オレタチだけじゃ。それにどのみちあと一か月で春までは対外試合禁止期間に入るんだから練習試合の采配どうの、ってことはしばらくは気にしなくてもいいと思うんだ。
うちの親父が言うにはお前らも本気で甲子園目指すならやっぱりチャンとした人に基礎から教わったほうがいいんじゃないか?って」
そして杉山父いわく、お前らで決めろ、その気があれば段取りしてやる、とのことらしかった。
「そうか、社会人野球の出身か。いいじゃん」
「都市対抗に出たことあるんじゃ、ホンマモンだな」
「で、どんな人なの?」
「????」
「知らないの?」
「知らない・・・・」
そこでいちど会話が途切れかかったんだけれども
「じゃ、会いに行くか?」
と、勇士のひとことで決まってしまった。まず、会ってみよう。それからだ、と。
それでさっそくその場から駿斗が父親に連絡し、三十分後に折り返しの返事があった。「土曜日の夕方六時に時間もらったから、行ってこい」
と。
そしてそれから、とくに何もない平日が無作為に通り過ぎて土曜日となり
四時に練習は終わった。
啓太、勇士、健大、圭介、駿斗、そして拓海の六人は電車を乗り継ぎ、さらに最寄りの駅から三十分も歩いてやっと目的地近くまでたどり着いた。
「しかし、遠いな」
「これで変なヒトだったらどうする?」
「そんときはことわろ」
「ムリだろ、そんなの」
「杉山の父ちゃんの口利きじゃ、会ったあとやっぱり、ってのはなあ~」
「大丈夫だよ。お前らで決めたことならあとは俺が何とかする、って言ってたし」
「ま、お前の親父さんならそういうだろうな」
そんなことを話しながらやっと向こうに「小島興業」っていう看板が見えてきた。
「あれか?」
「みたいだな」
「なんかちょっと、コワくね?」
六人はその看板を見て少しチビリが来たようだ。
「まさか怖い人じゃないよね?」
「だから知らないって、オレ」
六人は互いに顔を見合わせて立ち止まった。
「どうする?」
「帰る?」
「ばあか、それじゃ駿斗の顔をつぶすだろ」
「たしかに」
「とりあえず、行ってみよ」
啓太のその言葉で六人は看板目指して再び歩き始めた。
近くまで来ると「小島興業」の看板はところどころカケテいた。
大きな門を入ると庭には重機が何台も停まっていてその有様はきちんと「土建屋さん」の雰囲気を醸し出していた。十分すぎるほどに。
その雰囲気に圧倒されてみんなで「どうする?」とモジモジしてると
「どちら様ですか?」
と裏庭から女性が声をかけてきた。啓太が趣旨を伝えるとその女性は
「ああ、英誠学園の生徒さん?うかがってますよ。こちらへどうぞ」
と先に歩いて案内してくれた。六人が通されたところは二階建てプレハブの応接室であった。
そこのソファーにまるで借りてきた猫、のように六人は座った。
いちど姿を消した女性は再び戻るとお茶を運んできてくれた。
緊張で今初めて、マジマジト見ると「ソノヒト」はかなりの、をオオキク通り越して
ブットビ級の美人であった。
美人社員?はお茶をテーブルに置くと
「遠かったでしょ~ご苦労様でした~」
とゴビをオモイッキリ伸ばして六人の顔をひとりひとり、食い入るように見つめた。
そして
「社長はもう少しでまいりますので~」とマタマタゴビを伸ばしたまま行ってしまった。
啓太たちは緊張が解けていっせいにタメ息をついて天井を見上げる。
「奥さんか?」
「従業員だろ?」
「つき合ってるのか?」
「今、かんけーねーだろ?」
勇士の疑問に他の五人が笑った。
するとその時、応接室のドアがいきなり開いて男が入ってきた。
六人はあわてて居住まいを正した。
「おっ、悪かったね、マタして」
男は入るなりそう言うとドカッとソファーに腰掛けた。年のころは四十歳?くらい?
作業着を着たままで、みなが恐れていたアイロン、要はパンチパーマではなかった。
「小島です」
と男は自分の姓を名乗り
「杉山からはいろいろ聞いてるよ」
と穏やかに言った。
そして「楽にしてくれ」と言いさらに「何でも聞いてくれ」とつけ加えた。
なのでキャプテンである啓太があらかじめ六人で決めてきたことをいろいろと質問した。
小島と名乗る男は六人が想像していたよりもずっと紳士的だった。そして三十分くらいそこにいただろうか?六人出されたお茶にほとんど手も付けられずにそこを出た。
シンカントクコウホは何度も
「まあ、飲みなさいよ」とか「コーヒーのほうが良かったかな?」
などと気を遣ってはくれたのだけれど、六人のほうがカシコマッテしまって手をつけられなかったのであった。
今はもう、六人は駅について次の電車を待っているとこらだ。
小島興業を出てから駅までの帰る道すがらで、六人の意見はもう固まっていた。
「頼んでみるか」
「そうだな、悪い人じゃなさそうだ」
「うん、本当はもっと野球のことを話したかったけどな」
「いちばんは、駿斗のオヤジさんの知り合いってことだろ。やっぱ安心できるし」
「だな、それがいちばん」
などと言いながらブラブラ駅まで歩いた。
ちょっと前までの緊張はどこへやら?だ。
そろそろ上り電車が来るようだ、近くで踏切のおりる音がする。
すると圭介がポツリと言った。
「でも肝心なこと、聞き忘れたよね」
「なにを?」
「都市対抗、ホントに出たのか?ってこと」
「だな・・・・」
「タシカニ」
六人はそこで黙り込んで、でも素早く切り替えた。
「コンド、訊こう!」