空って、こんなに青かったんだ。
それは隣に寝転んでいた啓太に向かってなされた質問のようだった。
「ああ、言ってたな」
「なんだって~?」
「あとで夜食、持って行くからね~、って」
「そうか~リュウのぶんか~」
健大がそう唸るように答えるとゾンビのようにコロガッテいた勇士が
「お前だって食うだろ、いつも~」
と唸り返してきた。
そして五人は前回の宴?の時の夜食は何であったか、の話題へと入って行き、ラーメンと餃子だったろ?いやいやピザだったよ、馬鹿言え、豚汁だよ、などどまるで記憶にないのか、いい加減で勝手な言い分をぶつけ合いながら食後の腹ごなしをするわけだ。
しかし結局、答えは出ず最後に出た圭介の「メロンパンだろ」という意見を皆でキャッカしたあと本題の野球部の今後についての話題へと知らず知らずのうちに変わっていったのである。
「チキしょー甲子園行きてえ~」
「オレもだ~」
「ざけんじゃねーぞー!」
「クソッタレー」
最初に啓太が叫び声を上げると、それに護と健大、そして圭介が続いた。
やはりいくらイイカゲンが服を着て往来を歩いているようであっても、そこは高校球児。やっぱり悔しいのだ。
毎度毎度、最後はコテンコテンにされるんじゃ。
叫ぶようにわめいた四人はいつの間にか壁に寄っかかっていた勇士に視線を注ぐ。
そしてしばらく黙ったままの勇士をしばらく見ていたが、やがていちばん鋭い視線を浴びせていた健大が口を開いた。
「オマエはどうなんだよ」
勇士は勇士で下を見たままだったんだけど、他の四人が自分の方を注視していることだけは分かっているみたいだ。
そして返事のない勇士に健大がシビれをきらそうとした瞬間、勇士が小声で言った。
「このままじゃ、ミジメすぎねーかよ?オレタチ。ジョーダンじゃねーぞ、いつもいつも引き立て役でよ~。オレ、行ってやる。甲子園、死んでも行ってやる!」
それは強い決意のようでもあり、かといってあるいはまだ決めてないけど自分に言い聞かせているようでもあり・・・
聞いた四人には何とも半信半疑で自信なさげで、ある意味曖昧にも聞こえた。だから、健大が念を押すように勇士に訊きなおしたんだ。
「オマエ、行くのかよ。甲子園?」
勇士はまだ、下を見たままだった。しかし、次の言葉を発する時には、もうまっすぐに上を見て、力強く答えたのだった。
「ああ。行ってやるよ。甲子園。必ず、行ってやる!」
皆んなは、そんな勇士を見て口々に言葉をつないだ。
「オレも行ってやる!」
「俺も行く!」
「お前が行くってんなら、俺も行ってやるぜ!」
啓太が応え、護が受けて、健大が意思表示した。
「なら、おれも一緒に行くかな~」
最後に圭介がもののついでのようにさもノンキそうに言う。
と、思ったら次の瞬間、ほかの四人の気持ちが一致した。
「オマエは連れてイカネ~よ!」
そして一瞬の間があって五人は爆笑した。
見るといつのまにか圭介の右腕は勇士の首をギュウギュウと締め上げていた。
そこに護と啓太が加勢して、勇士は笑い転げながら悲鳴をあげ始めた。
その夜、五人は明け方まで語り合い、枕を投げ合い、空が白くなる頃にやっと寝息を立て始めた。
野球について、異性について、将来について、彼らは時が経つのも忘れて夢中になって語りあったのだった。