空って、こんなに青かったんだ。
センターを守る拓海には失投でないことは重々、ショウチ。バッテリーミスじゃないんだ。完璧に打たれたんだ。拓海はそうカンネンするように思った。
ふつうあそこのコースはカットしてファースト側へファールにするか、あるいはガバッと開いて(ギョウカイ用語ではアウトステップして、となるよ)三塁側へこれもやっぱりファールにするしかない。
もちろんあとは、ミノガス、というセンタクシもあるけど。あそこをホームランってナインだけど、フツウ。
じゃあ、なんで?ってなるよね。それはやっぱり恐るべきスイングスピードと腰の回転、あれほどの厳しいインコース攻めにも内側からバットを出せる技術だ。
さすがにスゴイよ。カントクサンが言ってたことはホントウだった。
「負けるよ」って。
でもオレタチだって、負けるわけにはいかない!
※
このイニング、勇士の必死のリードもあって五番バッターを打ち取り英誠学園は何とか二点で一回の表を抑えてダッグアウトにもどった。
「よ~し、いいだろう!」
カントクは思いのほか笑顔で選手をベンチに迎え入れた。なにか注意があるのかな?って思っていたナインはある意味、拍子抜けではあったのだけど。
「よ~し、攻めテ行こう!」
カントクはそれだけ言うとさっさとまたダッグアウトのベンチの、自分の定位置?にドッカリと腰かけてしまった。
でも、考えてみればそうだ。自分たちは紅白戦や普段の練習の中で、もう十分に野球に対する考え方や大切なことを日々、教わってきたのだ。だからそれをきちんと選手が理解して覚えていれば、なにもここでわざわざカントクが同じことを繰り返して説明などする必要はないんだ。
「ヨッシ!」
選手たちはみな、そう思っていたのだ。
「大事なのはフダン。いつも以上のことはできないんだから、ゼッタイニ、オオブタイデハ」
カントクはいつもそう言ってる。
さあ、一番の祐弥が左のバッターボックスに入った。
いつもと同じ、大きな声での挨拶で。主審からプレイがかかる。
先発投手はブルペンで英誠ナインの度肝を抜いた右腕の剛速球投手だ。
ウォーーミングアップからビシバシと捕手のミットを鳴らしていたこの元プロ?コウホのピッチャーは「ウゎ~いまどき珍しい!」
というほどの超がつく本格的なオーバースローだ。
第一球目はど真ん中の真っすぐ
「スットライ~っく!」
あまりの速さに思わず主審のコールも大きくなってしまったのか?やたらと派手なゼスチャー入りで一球目をジャッジする。
「イコウゼイコウゼ!」
「ユウヤ、イッたれヨ!」
英誠学園のベンチから大きな声が出る。ナインもだんだんとナレテきたようだね!
しかし見た目にも明らかに150キロオーバーだ。
そしてやたらと「オモソウ」
見逃した祐弥は軽くカントクを見たけど特に指示はない。
「お前のやるべきことはわかってるだろ?」
多分、これが今のカントクの心情だろう。
二球目も初球と同じど真ん中の真っすぐ。
「スットライ~っく!」
再び主審がおおきく右手を上げる。でも祐弥は平然としている、追い込まれたセッパクカンなんて微塵も見せない、いや、実際にナイノダ、切迫感が。
ベンチの心中はみな、一緒だった。この打席、祐弥はすでにヒットを打つことはステテイルのだ。優先順位の第一は球数を放らすことと球種を見極めること。優先順位第二は出塁すること。
つまりヒットを打つことは今の祐弥の目的には入ってないんだ。
星也のショックが少しでも和らぐよう淡白な攻撃だけはしてはいけないイニング、これを英誠ナインは全員が理解してそれに取り組んでいるのだ。
三球目は相手もこちらの攻撃の意図を汲んだはず、おそらくカットしずらい変化球だろう、これも全員が予想していた。
「でも、それは通じないよ~あいつは平気でカットするから、どんな球でも」
そんな英誠ナインの予想の通り、三球目、四球目は続けてカーブが来た。それもオソロシク落差のあるドロップともいうべきカーブが。でも祐弥はそれを何とかバットに当ててファールにする。
五球目は高めに真っすぐが外れ、六球目はアウトローにやはり真っすぐが外れた。カウントはツーボールツーストライク。
「いいよいいよ、ネバレネバレ!」
六球目は明らかにキメに来た球だったけど。当然、スリーボールにはしたくないはず、次が勝負球だ。まだここまで球種はストレートとカーブの二種しか放っていない。
ほかに何か持っているのか?でもいずれにせよ、ここで必要なことは球種にヤマを張らずマンベンナク待つこと。
サインが決まったようだ、剛速球投手の足があがって第七球、ナゲタッ!
横から見るナインからはやや球速が落ちていたように見えただけだったが実際には曲がりの小さいスライダーだった。
外角いっぱいのベストボールだったけど祐弥は出しかけたバットをスンデのところで止めて出さなかった。
「ボール!」
主審は厳しいコースをストライクと取らなかった。カウントはスリーボールツーストライクとなる。今度は投手側も追い込まれる状況だ。
おそらく次の球種がこのピッチャーの最も得意とするボールであろう。
「相手を追い込む状況を作れ。その時、選んで来た球が相手投手のベストボールだ」
いつもカントクが言っている。だから全員がそう思っていた。
「次はストレート」と。
しかも、ど真ん中、だと。だから祐弥もきっと同じ考えのはずだって。
第八球目、サインが決まった、足が上がった!ビシッ。
予想通りの剛速球がドマンナカ~。
「ファールボール!」
ボールは祐弥のバットをかすめてバックネットを直撃した。万が一の変化球に備えて直球七割の待ち方だった。もう気心も知れたナインには、今の祐弥の心情が手に取るようにわかっていたのだ。
「ヨッシャ!二十球くらいイコウゼ!」
これだけひとりの打者が粘って相手投手に球数を放らせれば、自ずとベンチも盛り上がるってものだ。そして相手バッテリーも相当に神経がスリヘル。
九球目も直球、でも祐弥はまたファールで逃げた。実に次の投球が十球目だ。でも次の球は読み辛いところだ。
祐弥も球種にとらわれずストライクゾーンに来た球に全対応、の構えだ。
サイン交換が終わって十球目、ナゲタ~~~カーブだ~。
真っすぐにやや比重を置いていたのであろう祐弥は出かかった重心とバットをギリギリで持ちこたえてバットに何とか当てた。
ボールは力なくサードの前へコロコロ、でも何がサイワイするかワカラナイ、あわててダッシュした三塁手は素早くボールをひろいあげて一塁に送球したが、俊足の祐弥が一瞬はやくベースを駆け抜けていたのだ。
「セーフ!」
一塁塁審が両手を広げてジェスチャーした。
「ヨッシャー」
「ナイス祐弥!」
「いいぞいいぞ!」
相手ピッチャーに十球も投げさせた上に内野安打で出塁、もうサイコーのパフォーマンスだ。
そしてもり上がる英誠ベンチ。
ここでバッターボックスには二番の亮太が入る。
今日の試合は打者がサインを出せ、とカントクから言われてるので亮太はウェイティングのサインを出した。
一球目は送る構えからバットを引いて、相手守備陣の様子をうかがう作戦だ。
おそらく相手もバント警戒でバントの仕辛い胸元の速球であろう。そう考えた亮太の予想通り初球はストレートだった。
とっさに亮太はバットを引きストライクを見送る。
どうやら守備側はやらせてもいい、とは思っていないようだ。
一塁手、三塁手がふたりとももの凄いダッシュをかけてきたのだから。
まして一塁手は左利き、三塁手は当然のごとく右利き。よほどのバントを決めても祐弥を送れるという保証はない。
「う~ん、これじゃ、いくら俊足の祐弥でもフツウのバントじゃセカンドでフォースアウトだな~」
ベンチで誰もがそう思っている。おそらくカントクさんもだろう。
でもどうしても送りたい。
何んとかなんないか?残る手はバントエンドランかバスターだ。単独スチールは危険すぎる。しかしカウントは相手有利の先行カウント、余裕があるぶん外される危険もある。
となるとバントエンドランもリスクはある。
「よし、ならバスターで行こう!」
今の相手チームの守備体系は二塁手はファーストベースのカバーへ、ショートストップはセカンドベースカバーに入る、空いた三塁ベースには投手が入る。
つまり三遊間と一、二塁間はガラ空きとなる。ボール球なら見逃せばいい。
「なんとかそこにボールを転がすんだ」
亮太はバスターのサインを出した。カントクからも修正のサインはない。
ピッチャーがセットに入った、ここは一球あるぞ、牽制が。
一塁のランコー(ランナーコーチのことだよ)からもあらかじめ気を付けるように注意があったし祐弥もわかっていたのでリードは小さめだった。
なので刺されることはなかったけど相手投手の素早いこと素早いこと、まさに電光石火の牽制だった。
これじゃ、ますます単独(スチール)はキビシイナ~。
チームいちの俊足の祐弥でさえ、いまの牽制でそう思いはじめていたのだ。
さあ、二球目だ。
亮太は早めにバントの構えに入った。ピッチャーの足があがって、と同時に一塁手、三塁手がダッシュ!ナゲタ~~~
亮太はとっさにバットをヒクッ~そこにウナリをあげて剛速球っ~アウトローいっぱいに~~~
「ガシャッ!」
という鈍い音がしてボールは一塁側への力ないファール・・・・
あまりの剛速球に亮太のバットが負けたのだ。よほど当たり所が悪かったと見えて亮太の手はビリビリと痺れているようだ、右手をブラブラとさせてしかめっ面をしてる。
「ハヤイ(汗)」
何とか送らなくちゃいけないのにツーストライクに追い込まれてしまった亮太。こうなるとスリーバントは厳しい、失敗すれば三振だ。
さあ、どうする?
何とか平行カウントまでもっていこう、それしかない。
亮太はそう目標を決めた。
「ボール球には絶対に手を出さない!」
そして続く三球目、四球目は亮太の思惑通りにわずかに外れてくれた。当然ここが勝負球だ。さて、何で来るか?
亮太はここでヒットエンドランのサインを出した。必ずストライクゾーンに来るはず、という読みだ。
相手もスリーボールにはしたくないはずだった。
とにかく空振りだけはダメだ。亮太は気持ちを強く持って構えに入った。
ピッチャーがセットに入る、今度は長いセットだ。祐弥はなかなかリードを広げられない。
なんたってあの素早い牽制を見せられてる、だから当然だった。
まだセットから動かない。と、エッ?
「うわ~はえ~」
なななんと、ものスゲー速い超が付くクイックモーションで五球目がナゲラレタ~
アウトハイにウエスと~?
亮太はカラブリ~そして~祐弥も悠々と二塁でタッチアウト~・・・・
ナンと相手にヨマレテタンダ~亮太の作戦が・・・・
だからウエストされてキャッチャーも余裕で送球。またたく間にツーアウト・・・・
これで意気消沈してしまったわけではないのだろうけど、そのあと今日三番に入った護もまったく剛速球に手が出ずあえなく三振。
英誠学園は一回の裏の攻撃を、結局は三者凡退の無得点で終わってしまった。
しかしその後は、勇士の頭を使った必死のリードで四回まで星也は何とか相手打線を無得点に抑えた。
ふつうあそこのコースはカットしてファースト側へファールにするか、あるいはガバッと開いて(ギョウカイ用語ではアウトステップして、となるよ)三塁側へこれもやっぱりファールにするしかない。
もちろんあとは、ミノガス、というセンタクシもあるけど。あそこをホームランってナインだけど、フツウ。
じゃあ、なんで?ってなるよね。それはやっぱり恐るべきスイングスピードと腰の回転、あれほどの厳しいインコース攻めにも内側からバットを出せる技術だ。
さすがにスゴイよ。カントクサンが言ってたことはホントウだった。
「負けるよ」って。
でもオレタチだって、負けるわけにはいかない!
※
このイニング、勇士の必死のリードもあって五番バッターを打ち取り英誠学園は何とか二点で一回の表を抑えてダッグアウトにもどった。
「よ~し、いいだろう!」
カントクは思いのほか笑顔で選手をベンチに迎え入れた。なにか注意があるのかな?って思っていたナインはある意味、拍子抜けではあったのだけど。
「よ~し、攻めテ行こう!」
カントクはそれだけ言うとさっさとまたダッグアウトのベンチの、自分の定位置?にドッカリと腰かけてしまった。
でも、考えてみればそうだ。自分たちは紅白戦や普段の練習の中で、もう十分に野球に対する考え方や大切なことを日々、教わってきたのだ。だからそれをきちんと選手が理解して覚えていれば、なにもここでわざわざカントクが同じことを繰り返して説明などする必要はないんだ。
「ヨッシ!」
選手たちはみな、そう思っていたのだ。
「大事なのはフダン。いつも以上のことはできないんだから、ゼッタイニ、オオブタイデハ」
カントクはいつもそう言ってる。
さあ、一番の祐弥が左のバッターボックスに入った。
いつもと同じ、大きな声での挨拶で。主審からプレイがかかる。
先発投手はブルペンで英誠ナインの度肝を抜いた右腕の剛速球投手だ。
ウォーーミングアップからビシバシと捕手のミットを鳴らしていたこの元プロ?コウホのピッチャーは「ウゎ~いまどき珍しい!」
というほどの超がつく本格的なオーバースローだ。
第一球目はど真ん中の真っすぐ
「スットライ~っく!」
あまりの速さに思わず主審のコールも大きくなってしまったのか?やたらと派手なゼスチャー入りで一球目をジャッジする。
「イコウゼイコウゼ!」
「ユウヤ、イッたれヨ!」
英誠学園のベンチから大きな声が出る。ナインもだんだんとナレテきたようだね!
しかし見た目にも明らかに150キロオーバーだ。
そしてやたらと「オモソウ」
見逃した祐弥は軽くカントクを見たけど特に指示はない。
「お前のやるべきことはわかってるだろ?」
多分、これが今のカントクの心情だろう。
二球目も初球と同じど真ん中の真っすぐ。
「スットライ~っく!」
再び主審がおおきく右手を上げる。でも祐弥は平然としている、追い込まれたセッパクカンなんて微塵も見せない、いや、実際にナイノダ、切迫感が。
ベンチの心中はみな、一緒だった。この打席、祐弥はすでにヒットを打つことはステテイルのだ。優先順位の第一は球数を放らすことと球種を見極めること。優先順位第二は出塁すること。
つまりヒットを打つことは今の祐弥の目的には入ってないんだ。
星也のショックが少しでも和らぐよう淡白な攻撃だけはしてはいけないイニング、これを英誠ナインは全員が理解してそれに取り組んでいるのだ。
三球目は相手もこちらの攻撃の意図を汲んだはず、おそらくカットしずらい変化球だろう、これも全員が予想していた。
「でも、それは通じないよ~あいつは平気でカットするから、どんな球でも」
そんな英誠ナインの予想の通り、三球目、四球目は続けてカーブが来た。それもオソロシク落差のあるドロップともいうべきカーブが。でも祐弥はそれを何とかバットに当ててファールにする。
五球目は高めに真っすぐが外れ、六球目はアウトローにやはり真っすぐが外れた。カウントはツーボールツーストライク。
「いいよいいよ、ネバレネバレ!」
六球目は明らかにキメに来た球だったけど。当然、スリーボールにはしたくないはず、次が勝負球だ。まだここまで球種はストレートとカーブの二種しか放っていない。
ほかに何か持っているのか?でもいずれにせよ、ここで必要なことは球種にヤマを張らずマンベンナク待つこと。
サインが決まったようだ、剛速球投手の足があがって第七球、ナゲタッ!
横から見るナインからはやや球速が落ちていたように見えただけだったが実際には曲がりの小さいスライダーだった。
外角いっぱいのベストボールだったけど祐弥は出しかけたバットをスンデのところで止めて出さなかった。
「ボール!」
主審は厳しいコースをストライクと取らなかった。カウントはスリーボールツーストライクとなる。今度は投手側も追い込まれる状況だ。
おそらく次の球種がこのピッチャーの最も得意とするボールであろう。
「相手を追い込む状況を作れ。その時、選んで来た球が相手投手のベストボールだ」
いつもカントクが言っている。だから全員がそう思っていた。
「次はストレート」と。
しかも、ど真ん中、だと。だから祐弥もきっと同じ考えのはずだって。
第八球目、サインが決まった、足が上がった!ビシッ。
予想通りの剛速球がドマンナカ~。
「ファールボール!」
ボールは祐弥のバットをかすめてバックネットを直撃した。万が一の変化球に備えて直球七割の待ち方だった。もう気心も知れたナインには、今の祐弥の心情が手に取るようにわかっていたのだ。
「ヨッシャ!二十球くらいイコウゼ!」
これだけひとりの打者が粘って相手投手に球数を放らせれば、自ずとベンチも盛り上がるってものだ。そして相手バッテリーも相当に神経がスリヘル。
九球目も直球、でも祐弥はまたファールで逃げた。実に次の投球が十球目だ。でも次の球は読み辛いところだ。
祐弥も球種にとらわれずストライクゾーンに来た球に全対応、の構えだ。
サイン交換が終わって十球目、ナゲタ~~~カーブだ~。
真っすぐにやや比重を置いていたのであろう祐弥は出かかった重心とバットをギリギリで持ちこたえてバットに何とか当てた。
ボールは力なくサードの前へコロコロ、でも何がサイワイするかワカラナイ、あわててダッシュした三塁手は素早くボールをひろいあげて一塁に送球したが、俊足の祐弥が一瞬はやくベースを駆け抜けていたのだ。
「セーフ!」
一塁塁審が両手を広げてジェスチャーした。
「ヨッシャー」
「ナイス祐弥!」
「いいぞいいぞ!」
相手ピッチャーに十球も投げさせた上に内野安打で出塁、もうサイコーのパフォーマンスだ。
そしてもり上がる英誠ベンチ。
ここでバッターボックスには二番の亮太が入る。
今日の試合は打者がサインを出せ、とカントクから言われてるので亮太はウェイティングのサインを出した。
一球目は送る構えからバットを引いて、相手守備陣の様子をうかがう作戦だ。
おそらく相手もバント警戒でバントの仕辛い胸元の速球であろう。そう考えた亮太の予想通り初球はストレートだった。
とっさに亮太はバットを引きストライクを見送る。
どうやら守備側はやらせてもいい、とは思っていないようだ。
一塁手、三塁手がふたりとももの凄いダッシュをかけてきたのだから。
まして一塁手は左利き、三塁手は当然のごとく右利き。よほどのバントを決めても祐弥を送れるという保証はない。
「う~ん、これじゃ、いくら俊足の祐弥でもフツウのバントじゃセカンドでフォースアウトだな~」
ベンチで誰もがそう思っている。おそらくカントクさんもだろう。
でもどうしても送りたい。
何んとかなんないか?残る手はバントエンドランかバスターだ。単独スチールは危険すぎる。しかしカウントは相手有利の先行カウント、余裕があるぶん外される危険もある。
となるとバントエンドランもリスクはある。
「よし、ならバスターで行こう!」
今の相手チームの守備体系は二塁手はファーストベースのカバーへ、ショートストップはセカンドベースカバーに入る、空いた三塁ベースには投手が入る。
つまり三遊間と一、二塁間はガラ空きとなる。ボール球なら見逃せばいい。
「なんとかそこにボールを転がすんだ」
亮太はバスターのサインを出した。カントクからも修正のサインはない。
ピッチャーがセットに入った、ここは一球あるぞ、牽制が。
一塁のランコー(ランナーコーチのことだよ)からもあらかじめ気を付けるように注意があったし祐弥もわかっていたのでリードは小さめだった。
なので刺されることはなかったけど相手投手の素早いこと素早いこと、まさに電光石火の牽制だった。
これじゃ、ますます単独(スチール)はキビシイナ~。
チームいちの俊足の祐弥でさえ、いまの牽制でそう思いはじめていたのだ。
さあ、二球目だ。
亮太は早めにバントの構えに入った。ピッチャーの足があがって、と同時に一塁手、三塁手がダッシュ!ナゲタ~~~
亮太はとっさにバットをヒクッ~そこにウナリをあげて剛速球っ~アウトローいっぱいに~~~
「ガシャッ!」
という鈍い音がしてボールは一塁側への力ないファール・・・・
あまりの剛速球に亮太のバットが負けたのだ。よほど当たり所が悪かったと見えて亮太の手はビリビリと痺れているようだ、右手をブラブラとさせてしかめっ面をしてる。
「ハヤイ(汗)」
何とか送らなくちゃいけないのにツーストライクに追い込まれてしまった亮太。こうなるとスリーバントは厳しい、失敗すれば三振だ。
さあ、どうする?
何とか平行カウントまでもっていこう、それしかない。
亮太はそう目標を決めた。
「ボール球には絶対に手を出さない!」
そして続く三球目、四球目は亮太の思惑通りにわずかに外れてくれた。当然ここが勝負球だ。さて、何で来るか?
亮太はここでヒットエンドランのサインを出した。必ずストライクゾーンに来るはず、という読みだ。
相手もスリーボールにはしたくないはずだった。
とにかく空振りだけはダメだ。亮太は気持ちを強く持って構えに入った。
ピッチャーがセットに入る、今度は長いセットだ。祐弥はなかなかリードを広げられない。
なんたってあの素早い牽制を見せられてる、だから当然だった。
まだセットから動かない。と、エッ?
「うわ~はえ~」
なななんと、ものスゲー速い超が付くクイックモーションで五球目がナゲラレタ~
アウトハイにウエスと~?
亮太はカラブリ~そして~祐弥も悠々と二塁でタッチアウト~・・・・
ナンと相手にヨマレテタンダ~亮太の作戦が・・・・
だからウエストされてキャッチャーも余裕で送球。またたく間にツーアウト・・・・
これで意気消沈してしまったわけではないのだろうけど、そのあと今日三番に入った護もまったく剛速球に手が出ずあえなく三振。
英誠学園は一回の裏の攻撃を、結局は三者凡退の無得点で終わってしまった。
しかしその後は、勇士の頭を使った必死のリードで四回まで星也は何とか相手打線を無得点に抑えた。