空って、こんなに青かったんだ。
カントクさんのお仲間軍団であったモーレツ野球チームとの練習試合が終わって、啓太たち野球部員も無事みんなが三年生になった。
そしてなんの縁なのかはたまた神様の思し召しなのかはわからないが、またまた拓海と健大、そして圭介と星也はおんなじクラスになってしまった。
こんな偶然はあるのだろうか?と自分たちでも訝しがるくらいの確率の良さだ。
なんでまた同じクラス?っていったいどういうことなのか、実際、新学期早々のクラス分けの張り紙を見たとき四人は顔を見合わせて吹き出してしまったのだ。
まあ、それも仕の方ないこと、他の野球部員はみなそれぞれバラバラになっていたのだから。しかしそのつつがない日々が何日か過ぎて新入生も入部してきた矢先、とんでもない大事件が起こったのだった。
それは暢気な一日の授業が始まろうという午前八時十五分過ぎ、啓太が登校早々にブチョウ先生から職員室まで来るように言われたことから始まったのだった。
同じクラスの柔道部の友人から
「職員室に来てって」
と伝えられた啓太がブチョウ先生を訪ねると、いつもノホホンとしているのが日常的?な顔色から一切のイロ?がウシナワレテいる・・・・
啓太もさすがにただ事ならぬ気配を感じとったか、思わず身構えてしまったほどだ。
青ざめたままのブチョウ先生は立ったままの啓太に椅子も勧めずにいきなり切り出した。
「カネコ~とんでもないことになっちまった・・・・」
びっくりしてカタマル啓太に、ブチョウ先生は間髪を入れずに続けざまに言った。
「小林が補導された・・・・」
「はっ?ホ・ド・ウ?」
啓太はとっさに意味がわからず返事が出来ないまましばしその場にタタズンダ。
そしてゆっくりと深呼吸をして啓太は自らの右頬を平手で叩いて自分を正気に戻そうとしてみた。
そして息を整えてから我を失っているブチョウ先生にもういちど訊きなおしてみたのだ。
「え~と、スミマセン。イッテルイミがわからなかったんですけど。どういうことでしょうか?」
するとブチョウ先生もココはしっかりしなきゃいけない、とばかりに啓太と同じように自分の頬をたたいてから恐る恐る、次の様に説明を始めたのだった。
「昨日の夜な、八時頃らしいが学校に警察から電話があってな『そちらの生徒の小林祐弥君を万引きの現行犯で補導しました』って。
それですぐに担任の長井先生が警察まで行って親御さんと一緒に引き取ってきたらしいんだがしばらく自宅謹慎ということになってな・・・・」
ブチョウ先生はそこまで言うとまた頭をかかえて黙り込んでしまった。
そして「う~ん」とうめき声のような苦痛にあえぐような何とも形容しがたい嗚咽を発すると下を向いたまま微動だにしなくなってしまった。
啓太はそんなブチョウ先生を上から見下ろすような感じになってしまい妙な気持になってしまったのだけれど、自分の素直な気持ちを言葉に出さなければとんでもない後悔をしそうで勇気を出して言ってみた。
「先生、それはきっと何かの間違いです。あいつはそんなことは絶対にしません」
啓太のその言葉にブチョウ先生も勇気を得たのか机に伏せていた顔をあげて
「うん、もちろんそれは俺もわかってるんだ・・・・」
と言う。
しかしブチョウ先生の説明では困ったことに「ショウコ」があるらしかった。
「小林のカバンから万引きした本が出てきたらしい・・・・」
そこまで言うと
「もう時間だ、また昼休みに来てくれ」と言ってブチョウ先生は啓太を教室に帰したのだった。
午前中の授業を終えて昼休みにもういちど話を聞いた啓太は
「このことは主だった連中以外には言うな」
とブチョウ先生に釘を刺されていたのでどうしたものかと頭を悩ませたけどやっぱり黙っているわけにはいかず、放課後の練習が終わった後、レギュラー陣だけを餃子屋に集めて対策を練ることにしたのだった。
いつもの通りに座敷席に車座になって座ったみんなに啓太が概略を話すとさすがに誰もが「エッ?・・・・」と言ったまま絶句状態に陥ってしまった。
そしてしばらくそのまま誰もが黙りこくってしまったのだった。
実際にはものの一分くらいだったろうか、しかしそれがみんなには一日千秋にも感じてしまったようだ。そしてそのながいながい沈黙が破られたのは勇士によってだった。
「と、言うことは対外試合禁止か出場辞退ってことになるな・・・・」
「甲子園もなくなるな・・・・」
「って、ことだな」
「ああ、そういうこと・・・・」
これは誰もが考えるトウゼンでゼツボウテキなカンソクだ。もう観念するしかない。
いままでだってずっとそうだったんだから・・・・
でも、みんな絶望の淵で今にも死にそうなとき、最後に健大が言ったんだ。
「だよな、そうなるよな。甲子園も何もかもすべてがなくなるよ。『ユーヤの疑いを晴らしてやらないかぎりはナ!』」
そう言った健大の輝くような目を、うつむいていたみんなが見つめなおした。
そして口々に合いの手を入れたのだった。
「だよな~疑いを晴らせばいいんだよな!」
「そうか、なにもビクビクすることはないんだ!」
「そうだよ、あいつがそんなことするわけねーし」
「ゼッテ~濡れ衣だぜ!」
「よ~し、そうなったら早速、作戦会議だあ~!」
そうと決まってからは実にハヤカッタ~~~
まずもういちど話を整理するために啓太が代表で祐弥に電話してことの詳細を聞くことにした。そして店の外で電話していた啓太が戻ってきたのが約十分後。
そこから再度、作戦会議がはじまった。
「ん~ってことは、ユーヤがやってないって言っても信じてもらえず店の防犯カメラは警察も確認してないってことなんだな?」
「そうらしい、いきなり紙袋の中を確認させろと店員に言われて店の事務室に連れていかれたって」
「それで警察、よばれたのか?」
「らしいな」
「ひで~な、それ」
「でさ、その紙袋ってどこのだ?」
「昨日、練習が早く終わったろ?帰りに佐々木スポーツに頼んどいたスパイクを取りに
行ってそこの紙袋だって」
「で、立ち寄った本屋はどこだ?」
「駅前の田中書店」
「あ~、あそこか~」
「オレもたまに行くよ」
「で、何が入ってたんだ?」
「夏目漱石の『こころ』???とかっていう文庫本だってよ」
「はあ~?」
「なんだそれ?」
「お前、読んだことあるか?」
「あるわけね~だろ、そんなの」
皆でわけのわからないことで盛り上がっていると横から勇士が口を挟んできた。
そして勇士が言う。
「ダレダ?ナツメソ?セキって?」
しかしザンネンながらその質問に的確にこたえられるものは、ひとりもイナカッタのだ。
仕方なくキャプテンとしてのセキニンからか、啓太が答えた。
「ショウセツカ?か?」
するとそばでそれを聞いていた拓海がボソッと餃子を口に入れながらひとりごとのように言った。
「夏目漱石でしょ?そんなもんが紙袋に入ってたってことジタイ、あいつじゃないって
ショウコでしょ?」
拓海の言い分はこうだ。
「夏目漱石って明治の文豪って言われる大作家で世界でも三本の指に入る大小説家だよ。
オヤジが言ってた、昔。
うちのオヤジ、バカみて~に本、好きだったから名前知ってるし『こころ』は途中まで読んだことアルシ。っていうか読まされた。
けど何が何だかわからない、ムズカシクッテ。なんなものあいつがヨムワケねーし、ヨメルわけねーし、だからヌスムワケネ~シ!」
これが拓海の言い分。そしてみんなが大きくナットクした。
「だよな、あいつが『ヤル』ならエロ本だろ?」
「だな」
「いや、マンガ本だろ?」
でも、さすがにこれには啓太がちょっとオコッタ。
「バカ、この大事な時にそんなことやるわけないだろ?たとえエロボンでも」
するとみんなも顔を見合わせながら笑って言った。
「だよな、たしかに啓太の言う通りだ。オレタチには甲子園っていう目標がある。
祐弥だけじゃなく、誰だってヤルわけない」
「だよな、だよな、ナイナイ」
そして彼らは元気を取り戻したのか出された餃子をすべて口に入れると、ケイタノケイタイを勝手につかんで店の外に出て、祐弥の番号にダイヤルした。
そして全員が代わる代わる口々に
「汚名は晴らしてやる」
「オレに任せろ」
「濡れ衣はオレがハラス」
「マッテろ、カナラズ助けてやる」
などと言いながら祐弥を元気づけることに精を出した。
そして最後に啓太が
「練習、さぼるなよ、素振りとランニングも。すぐに助けるからな!」
と伝えて長い電話は締めくくられた。
「ヨッシ、じゃあ明日から早速、行動だ!みんな、気をつけてな!」
そして啓太の号令でそれぞれが陽のとっぷりとくれた中を家路について行ったのだった。
そしてなんの縁なのかはたまた神様の思し召しなのかはわからないが、またまた拓海と健大、そして圭介と星也はおんなじクラスになってしまった。
こんな偶然はあるのだろうか?と自分たちでも訝しがるくらいの確率の良さだ。
なんでまた同じクラス?っていったいどういうことなのか、実際、新学期早々のクラス分けの張り紙を見たとき四人は顔を見合わせて吹き出してしまったのだ。
まあ、それも仕の方ないこと、他の野球部員はみなそれぞれバラバラになっていたのだから。しかしそのつつがない日々が何日か過ぎて新入生も入部してきた矢先、とんでもない大事件が起こったのだった。
それは暢気な一日の授業が始まろうという午前八時十五分過ぎ、啓太が登校早々にブチョウ先生から職員室まで来るように言われたことから始まったのだった。
同じクラスの柔道部の友人から
「職員室に来てって」
と伝えられた啓太がブチョウ先生を訪ねると、いつもノホホンとしているのが日常的?な顔色から一切のイロ?がウシナワレテいる・・・・
啓太もさすがにただ事ならぬ気配を感じとったか、思わず身構えてしまったほどだ。
青ざめたままのブチョウ先生は立ったままの啓太に椅子も勧めずにいきなり切り出した。
「カネコ~とんでもないことになっちまった・・・・」
びっくりしてカタマル啓太に、ブチョウ先生は間髪を入れずに続けざまに言った。
「小林が補導された・・・・」
「はっ?ホ・ド・ウ?」
啓太はとっさに意味がわからず返事が出来ないまましばしその場にタタズンダ。
そしてゆっくりと深呼吸をして啓太は自らの右頬を平手で叩いて自分を正気に戻そうとしてみた。
そして息を整えてから我を失っているブチョウ先生にもういちど訊きなおしてみたのだ。
「え~と、スミマセン。イッテルイミがわからなかったんですけど。どういうことでしょうか?」
するとブチョウ先生もココはしっかりしなきゃいけない、とばかりに啓太と同じように自分の頬をたたいてから恐る恐る、次の様に説明を始めたのだった。
「昨日の夜な、八時頃らしいが学校に警察から電話があってな『そちらの生徒の小林祐弥君を万引きの現行犯で補導しました』って。
それですぐに担任の長井先生が警察まで行って親御さんと一緒に引き取ってきたらしいんだがしばらく自宅謹慎ということになってな・・・・」
ブチョウ先生はそこまで言うとまた頭をかかえて黙り込んでしまった。
そして「う~ん」とうめき声のような苦痛にあえぐような何とも形容しがたい嗚咽を発すると下を向いたまま微動だにしなくなってしまった。
啓太はそんなブチョウ先生を上から見下ろすような感じになってしまい妙な気持になってしまったのだけれど、自分の素直な気持ちを言葉に出さなければとんでもない後悔をしそうで勇気を出して言ってみた。
「先生、それはきっと何かの間違いです。あいつはそんなことは絶対にしません」
啓太のその言葉にブチョウ先生も勇気を得たのか机に伏せていた顔をあげて
「うん、もちろんそれは俺もわかってるんだ・・・・」
と言う。
しかしブチョウ先生の説明では困ったことに「ショウコ」があるらしかった。
「小林のカバンから万引きした本が出てきたらしい・・・・」
そこまで言うと
「もう時間だ、また昼休みに来てくれ」と言ってブチョウ先生は啓太を教室に帰したのだった。
午前中の授業を終えて昼休みにもういちど話を聞いた啓太は
「このことは主だった連中以外には言うな」
とブチョウ先生に釘を刺されていたのでどうしたものかと頭を悩ませたけどやっぱり黙っているわけにはいかず、放課後の練習が終わった後、レギュラー陣だけを餃子屋に集めて対策を練ることにしたのだった。
いつもの通りに座敷席に車座になって座ったみんなに啓太が概略を話すとさすがに誰もが「エッ?・・・・」と言ったまま絶句状態に陥ってしまった。
そしてしばらくそのまま誰もが黙りこくってしまったのだった。
実際にはものの一分くらいだったろうか、しかしそれがみんなには一日千秋にも感じてしまったようだ。そしてそのながいながい沈黙が破られたのは勇士によってだった。
「と、言うことは対外試合禁止か出場辞退ってことになるな・・・・」
「甲子園もなくなるな・・・・」
「って、ことだな」
「ああ、そういうこと・・・・」
これは誰もが考えるトウゼンでゼツボウテキなカンソクだ。もう観念するしかない。
いままでだってずっとそうだったんだから・・・・
でも、みんな絶望の淵で今にも死にそうなとき、最後に健大が言ったんだ。
「だよな、そうなるよな。甲子園も何もかもすべてがなくなるよ。『ユーヤの疑いを晴らしてやらないかぎりはナ!』」
そう言った健大の輝くような目を、うつむいていたみんなが見つめなおした。
そして口々に合いの手を入れたのだった。
「だよな~疑いを晴らせばいいんだよな!」
「そうか、なにもビクビクすることはないんだ!」
「そうだよ、あいつがそんなことするわけねーし」
「ゼッテ~濡れ衣だぜ!」
「よ~し、そうなったら早速、作戦会議だあ~!」
そうと決まってからは実にハヤカッタ~~~
まずもういちど話を整理するために啓太が代表で祐弥に電話してことの詳細を聞くことにした。そして店の外で電話していた啓太が戻ってきたのが約十分後。
そこから再度、作戦会議がはじまった。
「ん~ってことは、ユーヤがやってないって言っても信じてもらえず店の防犯カメラは警察も確認してないってことなんだな?」
「そうらしい、いきなり紙袋の中を確認させろと店員に言われて店の事務室に連れていかれたって」
「それで警察、よばれたのか?」
「らしいな」
「ひで~な、それ」
「でさ、その紙袋ってどこのだ?」
「昨日、練習が早く終わったろ?帰りに佐々木スポーツに頼んどいたスパイクを取りに
行ってそこの紙袋だって」
「で、立ち寄った本屋はどこだ?」
「駅前の田中書店」
「あ~、あそこか~」
「オレもたまに行くよ」
「で、何が入ってたんだ?」
「夏目漱石の『こころ』???とかっていう文庫本だってよ」
「はあ~?」
「なんだそれ?」
「お前、読んだことあるか?」
「あるわけね~だろ、そんなの」
皆でわけのわからないことで盛り上がっていると横から勇士が口を挟んできた。
そして勇士が言う。
「ダレダ?ナツメソ?セキって?」
しかしザンネンながらその質問に的確にこたえられるものは、ひとりもイナカッタのだ。
仕方なくキャプテンとしてのセキニンからか、啓太が答えた。
「ショウセツカ?か?」
するとそばでそれを聞いていた拓海がボソッと餃子を口に入れながらひとりごとのように言った。
「夏目漱石でしょ?そんなもんが紙袋に入ってたってことジタイ、あいつじゃないって
ショウコでしょ?」
拓海の言い分はこうだ。
「夏目漱石って明治の文豪って言われる大作家で世界でも三本の指に入る大小説家だよ。
オヤジが言ってた、昔。
うちのオヤジ、バカみて~に本、好きだったから名前知ってるし『こころ』は途中まで読んだことアルシ。っていうか読まされた。
けど何が何だかわからない、ムズカシクッテ。なんなものあいつがヨムワケねーし、ヨメルわけねーし、だからヌスムワケネ~シ!」
これが拓海の言い分。そしてみんなが大きくナットクした。
「だよな、あいつが『ヤル』ならエロ本だろ?」
「だな」
「いや、マンガ本だろ?」
でも、さすがにこれには啓太がちょっとオコッタ。
「バカ、この大事な時にそんなことやるわけないだろ?たとえエロボンでも」
するとみんなも顔を見合わせながら笑って言った。
「だよな、たしかに啓太の言う通りだ。オレタチには甲子園っていう目標がある。
祐弥だけじゃなく、誰だってヤルわけない」
「だよな、だよな、ナイナイ」
そして彼らは元気を取り戻したのか出された餃子をすべて口に入れると、ケイタノケイタイを勝手につかんで店の外に出て、祐弥の番号にダイヤルした。
そして全員が代わる代わる口々に
「汚名は晴らしてやる」
「オレに任せろ」
「濡れ衣はオレがハラス」
「マッテろ、カナラズ助けてやる」
などと言いながら祐弥を元気づけることに精を出した。
そして最後に啓太が
「練習、さぼるなよ、素振りとランニングも。すぐに助けるからな!」
と伝えて長い電話は締めくくられた。
「ヨッシ、じゃあ明日から早速、行動だ!みんな、気をつけてな!」
そして啓太の号令でそれぞれが陽のとっぷりとくれた中を家路について行ったのだった。