空って、こんなに青かったんだ。
さあ!泣いても笑っても攻撃はあと、二回しかない。
この回は九番に入った啓太からだった。
「ヨッシャ~逆転するぜ!」
口々に声が出るようになった。絶対に点を入れなくてはならないイニングだ。
ベンチからも一年生のふたりが大声で応援する。
「キャプテン!お願いシマっす!」
啓太はもう、決めていた。
「球種に絞ろう、追い込まれるまでは。カーブだ。カーブを狙う!」
「八回のオモテ~、エイセイガクエンの~コウゲキは~きゅうばん、せんた~カネコくん~」
もうあと、二イニングしかない。それで自分たちの最後の夏は終わってしまうのだ。
それは「高校生活の終わり」を意味する。
スタンドの応援も最後の力を振り絞って精一杯の演奏と声を枯らしての大声援だ!
「イケ~カネコっ~!!!」
望月がガなった。
「死んでも出ろ!」
なんとも恐ろしいオウエンダ。死んだらデレナイだろうに。
「カーブ、カーブ!」
啓太がこころの中で叫んでいた。
「来い、カーブ!」
ピッチャーの足があがった。高く上がる、思いっきり投げおろす。
キタぁ~カーブだ~~~
焦るな、引きつけろ~啓太がこころで叫ぶ。
「カッキっ~ン!」
真っ芯で捉えた打球が火の出るような勢いでピッチャーの足元をヌケタ~~~
センター前ヒットっ~~~~!!!
「イイぞっ!イイっぞ、カネっコ~~~っ!」
大応援団が乱舞する一塁側スタンド!ブラスバンドがナルワなるわ!
ここで次のバッターは一番の祐弥だ。さあどうする?
ブチョウ先生はまだ、動かない。サインなしだ。
「イチバン、しょ~と~コバヤシくん」
ここは難しい。得点は三点差だ。手堅く一点を取ればよい場面ではない。しかし強攻してダブられるのは・・・
祐弥は初球のアウトロー真っすぐを手堅くバントして、啓太を二塁に進めた。
絶対に避けなければならない「ゲッツー」を食らわないためだ。
一死を与えてでも後続の打者に賭けたのだ。
さあここでチーム一の打率を誇る護だ。ランナー飛び出しがない限り、併殺はない。
ベンチから声が飛ぶ。
「祐弥~ライナーバックだぞ!」
そうそう、えてして負けてる方は気がせく。前へ前へと。だから低いライナーで飛び出してアウトを取られないようにみんなで祐弥に指示を送ったのだ。
「ニバン、セカンド~トネっくん~」
啓太がわざとチョビチョビと動き相手投手を牽制する。そう、三点勝ってるからって我に返られて落ち着かれちゃ~困るのだ。だから、動いて気をちらつかせる。
護はヒッパリにかかるはず、当然相手バッテリーもそうはさせずと外角を攻めてくるだろう。護も右投げ左打ちだから。
なら、踏み込むかインコースに来る失投を待つかだ。あるいは???
ここで百戦錬磨の護の脳裏にあるアイデアが浮かんだ。
「ヨッシ!真っすぐを待とう。インコースなら一塁側にドラッグバント。アウトコースに来たら三遊間にコロガス!」
そう、護は内野手が前進してこない守備体系を見てセーフティー、と心に決めたのだ。さらに相手は一点はショウガナイ、と腹をくくったようだ、
一二塁間と三遊間は開けて一塁線と三塁線を閉めている。一点をあきらめ大量点を防ぐハラだ。ならば・・・
「よ~し来い、マッスグ!」
ピッチャー、足があがるっ~~~~~っ!
ナゲタ~キタっ~ストレートっ~内角だ~!
護は一塁にスタートを切りながらインローの真っすぐをバットで引きずるように引っかける!
ウマい!ちょうど投手と一塁手、そして二塁手の三角地点へと打球は転がってイッタ~
「セーフっ!」
二塁手がボールを拾い上げた時には、時すでに遅し、護は俊足を飛ばして一塁ベースを駆け抜けていた。もちろん啓太はそつなく三塁ベースを落とし入れている。
ワンアウト一塁三塁とさらにチャンスがヒロガッタ!
俄然、盛り上がる英誠応援団!ワッショイわっしょいの大合唱!
即席の応援団が角刈りやパンチパーマの上から全員がバケツの水をかけあっている。
物凄い殺気だ。
「サンバン、ふぁーすと~ひらやまッくん!」
この時まだ、ブチョウ先生は悩んでいた。決めかねていたのだ、どう攻めるのか?
作川学院は三点のリードと言うことで三塁ランナーの生還は仕方なし、と踏んだようだ。
内野の二遊間は前進守備ではなくて中間守備、併殺ネライの態勢で守りに入った。
ファーストとサードはやや前進、スクイズも頭に入れた守りだ。
となるといちばん怖いのはゲッツーだ。一瞬にして攻撃は終わってしまう。
そんなことになればこの試合はほぼ、負けだろう。甲子園もオワル。
何としてもそれだけはサケナケレバ。
でも、仮にスクイズが成功してもまだ二点差、ツーアウトになってランナーは二塁、一塁が空くのでおそらく相手は拓海との勝負は避けるだろう。
「う~~~~ん、ナヤム~~~」
何としてでも稲森と勝負をさせたい。そういう状況を作らなければ。それしか英誠が勝つホウホウハナイ。
それがブチョウ先生の偽らざる今の心情だったのだ。
バッターボックスに入ろうとする健大とブチョウ先生の目が、一瞬交錯した。
「スクイズはしない。だが併殺だけは避けろ!」
ブチョウ先生はそう決めたようだ、そして叫んだようだった、心の中で。
それが健大にはチャンと伝わった。これが小島監督が彼らに教え込んできた
「共に考える野球」だ。その賜物だったんだ。
「スクイズだってイチかバチかの賭けだ。絶対にハズサレナイ、っていう保証はナイ。
仮に決まったとしてもまだ二点敗けてて、しかも一塁が空いて拓海だ。
おそらくまた歩かされて塁を埋められる。
そして勇士には長打が求められて、あるいは圭介との連打が必要だ」
ブチョウ先生はそう考えて健大に賭けたのだ。肝を据えて。
いっぽうの健大もわかっていた。
「拓海に回ることなく終わる、ゲッツーだけは御法度だ。
だからゴロは避けなければならない。ということはアッパーで打たなければ。
球種よりもタイミングだ、大事なのは。なら、スライダーのスピードで待とう、ちょうどストレートとカーブの中間的スピードだから。
『決めた!』」
バッテリーもサインが決まったようだ。
「初球から迷わず行く!」
健大も迷いはなかった。
ピッチャー足があがる、ナゲタっ!
カーブだ!!!ゾーンにキテイル、健大は突っ込まない!
スライダーで待ってたから抑えがキイテル。溜めろタメロっ!
「打てっ~~~~~っ!」
健大は思い切って下からすくい上げた。
アガッタ~これで併殺はない。
外野まで飛んでる、っン???
しかし思った以上に伸びな~~い。定位置にいたレフトが二、三歩下がったが再び猛然と前に出て来た。
う~ん、タッチアップは微妙なとこだ。
捕った~~~啓太スタート!
が、コーチャーも止める、啓太も三塁ベースにバック!
無理をするとこじゃない、ホームで刺されたらこれも形が違うけどゲッツーだ。
スリーアウトチェンジ、元も子もない。すべてオワッチマウ。
そして啓太の自重は正しかった。レフトからはいいボールがワンバウンドで返ってきたのだった。あのまま突っ込んでいたらアウトだったろう。
護もあえてタッチアップでの二塁進塁は狙わなかった。一塁を開けて拓海が歩かされるのを防いだのだ。
状況はアウトをひとつ増やし、まだ点は入っていない。ツーアウト一塁三塁のままだ。
この回は九番に入った啓太からだった。
「ヨッシャ~逆転するぜ!」
口々に声が出るようになった。絶対に点を入れなくてはならないイニングだ。
ベンチからも一年生のふたりが大声で応援する。
「キャプテン!お願いシマっす!」
啓太はもう、決めていた。
「球種に絞ろう、追い込まれるまでは。カーブだ。カーブを狙う!」
「八回のオモテ~、エイセイガクエンの~コウゲキは~きゅうばん、せんた~カネコくん~」
もうあと、二イニングしかない。それで自分たちの最後の夏は終わってしまうのだ。
それは「高校生活の終わり」を意味する。
スタンドの応援も最後の力を振り絞って精一杯の演奏と声を枯らしての大声援だ!
「イケ~カネコっ~!!!」
望月がガなった。
「死んでも出ろ!」
なんとも恐ろしいオウエンダ。死んだらデレナイだろうに。
「カーブ、カーブ!」
啓太がこころの中で叫んでいた。
「来い、カーブ!」
ピッチャーの足があがった。高く上がる、思いっきり投げおろす。
キタぁ~カーブだ~~~
焦るな、引きつけろ~啓太がこころで叫ぶ。
「カッキっ~ン!」
真っ芯で捉えた打球が火の出るような勢いでピッチャーの足元をヌケタ~~~
センター前ヒットっ~~~~!!!
「イイぞっ!イイっぞ、カネっコ~~~っ!」
大応援団が乱舞する一塁側スタンド!ブラスバンドがナルワなるわ!
ここで次のバッターは一番の祐弥だ。さあどうする?
ブチョウ先生はまだ、動かない。サインなしだ。
「イチバン、しょ~と~コバヤシくん」
ここは難しい。得点は三点差だ。手堅く一点を取ればよい場面ではない。しかし強攻してダブられるのは・・・
祐弥は初球のアウトロー真っすぐを手堅くバントして、啓太を二塁に進めた。
絶対に避けなければならない「ゲッツー」を食らわないためだ。
一死を与えてでも後続の打者に賭けたのだ。
さあここでチーム一の打率を誇る護だ。ランナー飛び出しがない限り、併殺はない。
ベンチから声が飛ぶ。
「祐弥~ライナーバックだぞ!」
そうそう、えてして負けてる方は気がせく。前へ前へと。だから低いライナーで飛び出してアウトを取られないようにみんなで祐弥に指示を送ったのだ。
「ニバン、セカンド~トネっくん~」
啓太がわざとチョビチョビと動き相手投手を牽制する。そう、三点勝ってるからって我に返られて落ち着かれちゃ~困るのだ。だから、動いて気をちらつかせる。
護はヒッパリにかかるはず、当然相手バッテリーもそうはさせずと外角を攻めてくるだろう。護も右投げ左打ちだから。
なら、踏み込むかインコースに来る失投を待つかだ。あるいは???
ここで百戦錬磨の護の脳裏にあるアイデアが浮かんだ。
「ヨッシ!真っすぐを待とう。インコースなら一塁側にドラッグバント。アウトコースに来たら三遊間にコロガス!」
そう、護は内野手が前進してこない守備体系を見てセーフティー、と心に決めたのだ。さらに相手は一点はショウガナイ、と腹をくくったようだ、
一二塁間と三遊間は開けて一塁線と三塁線を閉めている。一点をあきらめ大量点を防ぐハラだ。ならば・・・
「よ~し来い、マッスグ!」
ピッチャー、足があがるっ~~~~~っ!
ナゲタ~キタっ~ストレートっ~内角だ~!
護は一塁にスタートを切りながらインローの真っすぐをバットで引きずるように引っかける!
ウマい!ちょうど投手と一塁手、そして二塁手の三角地点へと打球は転がってイッタ~
「セーフっ!」
二塁手がボールを拾い上げた時には、時すでに遅し、護は俊足を飛ばして一塁ベースを駆け抜けていた。もちろん啓太はそつなく三塁ベースを落とし入れている。
ワンアウト一塁三塁とさらにチャンスがヒロガッタ!
俄然、盛り上がる英誠応援団!ワッショイわっしょいの大合唱!
即席の応援団が角刈りやパンチパーマの上から全員がバケツの水をかけあっている。
物凄い殺気だ。
「サンバン、ふぁーすと~ひらやまッくん!」
この時まだ、ブチョウ先生は悩んでいた。決めかねていたのだ、どう攻めるのか?
作川学院は三点のリードと言うことで三塁ランナーの生還は仕方なし、と踏んだようだ。
内野の二遊間は前進守備ではなくて中間守備、併殺ネライの態勢で守りに入った。
ファーストとサードはやや前進、スクイズも頭に入れた守りだ。
となるといちばん怖いのはゲッツーだ。一瞬にして攻撃は終わってしまう。
そんなことになればこの試合はほぼ、負けだろう。甲子園もオワル。
何としてもそれだけはサケナケレバ。
でも、仮にスクイズが成功してもまだ二点差、ツーアウトになってランナーは二塁、一塁が空くのでおそらく相手は拓海との勝負は避けるだろう。
「う~~~~ん、ナヤム~~~」
何としてでも稲森と勝負をさせたい。そういう状況を作らなければ。それしか英誠が勝つホウホウハナイ。
それがブチョウ先生の偽らざる今の心情だったのだ。
バッターボックスに入ろうとする健大とブチョウ先生の目が、一瞬交錯した。
「スクイズはしない。だが併殺だけは避けろ!」
ブチョウ先生はそう決めたようだ、そして叫んだようだった、心の中で。
それが健大にはチャンと伝わった。これが小島監督が彼らに教え込んできた
「共に考える野球」だ。その賜物だったんだ。
「スクイズだってイチかバチかの賭けだ。絶対にハズサレナイ、っていう保証はナイ。
仮に決まったとしてもまだ二点敗けてて、しかも一塁が空いて拓海だ。
おそらくまた歩かされて塁を埋められる。
そして勇士には長打が求められて、あるいは圭介との連打が必要だ」
ブチョウ先生はそう考えて健大に賭けたのだ。肝を据えて。
いっぽうの健大もわかっていた。
「拓海に回ることなく終わる、ゲッツーだけは御法度だ。
だからゴロは避けなければならない。ということはアッパーで打たなければ。
球種よりもタイミングだ、大事なのは。なら、スライダーのスピードで待とう、ちょうどストレートとカーブの中間的スピードだから。
『決めた!』」
バッテリーもサインが決まったようだ。
「初球から迷わず行く!」
健大も迷いはなかった。
ピッチャー足があがる、ナゲタっ!
カーブだ!!!ゾーンにキテイル、健大は突っ込まない!
スライダーで待ってたから抑えがキイテル。溜めろタメロっ!
「打てっ~~~~~っ!」
健大は思い切って下からすくい上げた。
アガッタ~これで併殺はない。
外野まで飛んでる、っン???
しかし思った以上に伸びな~~い。定位置にいたレフトが二、三歩下がったが再び猛然と前に出て来た。
う~ん、タッチアップは微妙なとこだ。
捕った~~~啓太スタート!
が、コーチャーも止める、啓太も三塁ベースにバック!
無理をするとこじゃない、ホームで刺されたらこれも形が違うけどゲッツーだ。
スリーアウトチェンジ、元も子もない。すべてオワッチマウ。
そして啓太の自重は正しかった。レフトからはいいボールがワンバウンドで返ってきたのだった。あのまま突っ込んでいたらアウトだったろう。
護もあえてタッチアップでの二塁進塁は狙わなかった。一塁を開けて拓海が歩かされるのを防いだのだ。
状況はアウトをひとつ増やし、まだ点は入っていない。ツーアウト一塁三塁のままだ。