空って、こんなに青かったんだ。
初めて会った日、そう、自分が転校して最初に教室に入ったとき、坊主頭の健大を見て
「メンドクせ~」と思ったんだ、オレは。
「野球部かよ~」
って。
あれからもう、一年半が経ったんだな。早いもんだ。
コイツラと出会わなかったらオレの高校生活はどんなだったろう?充実してたのか?
楽しかったのか?
「楽しくも、充実もなかったろうな。きっと。今この時、がオレが野球をもういちどやろうって思った理由なんだな!」
拓海はロージンに手をやった。手のひらに、そして甲に三度ずつ粉をはたくとそれをプレートの後方に置いた。
次の一球は高めに外れてスリーボールツーストライクとなった。
押し出しなら同点、ヒットを打たれればサヨナラ負けかもしれなかった。
これ以上ない、切羽詰まった状況にチガイナイ。カクジツニ。
健大が、祐弥が、そして亮太と護がマウンドの近くまで歩み寄って拓海に声をかけた。
「マカセろ!」
「打たせてイイぞ!」
「オマエの好きなボールで思いっ切りイケ!」
そう言うと、健大以外の三人はそれぞれ守備位置に戻って行った。
そして最後に健大だけが残った。
健大はマウンドのプレート付近の土を右足のスパイクの先で軽くほぐしながら、そしてなぜだかスコアーボードの旗を見ながら拓海に言ったのだ。
「野球をまたやってみた理由、ワカッタカ?」
拓海は燦燦と降り注ぐ太陽の下で、したたり落ちる汗を左腕のアンダーシャツで拭いながら、しかしシッカリと首をたてに振った。
「うん」
「へ~そうなのか、ワカッタのか?」
「わかったよ、ちゃんと」
「そうか、ならイイや」
健大はそれだけ言うと答えは訊こうともせずに自分の守るところへと帰ろうとしたのだけれど、ふと思い出したようにうしろを振り返えって今度はハッキリと拓海の眼を見て言った。
「甲子園、行こうな!」
いつもの健大らしい、実に意思の堅い視線だった。
再び踵を返して健大はポジションへと戻って行った。その後ろ姿はなんとも頼もしかった。
「訊かね~ってことは、アイツもオレとオナジなんだな。きっとおんなじモンヲ、さがしてやがったンダ!」
拓海は外野のほうを振り返った。
「打たせるぞ~~~!」
大きく両腕を掲げて叫んだ。
啓太が、駿斗が、そして圭介が
「マカセロ~~~!」
と同時にグラブを掲げて叫んだ。
「あいつらなら、どんな打球でもきっと捕ってくれるはずだ」
拓海はそう確信していた。
でも、そんな気持ちとは裏腹にメラメラと燃え上がって来るものを抑えずにはいられなかったのだ。
「打たせるもんか!絶対に打たせない。カスラセもしない。ど真ん中に投げ込んでやる。
打てるもんなら打ってみろ!」
守りを信用していないわけでも、ひとり相撲を取ろうというわけでもなかった。
でも、絶対に打たせるわけにはいかないんだ、ゼッタイニ!
拓海はプレートに軸足を置いた。そして大きく深呼吸してから勇士を睨んだ。
「エッ???」
いちばん焦ったのは勇士だ。
「まだサイン、出してね~ぞ。オイオイ?!」
そんな勇士のランシン?など一切容赦せずに拓海は大きく振りかぶった。
「セットじゃないって???」
勇士だけデハない。ブチョウ先生も、ダッグアウト後方に陣取るカントクサンも、守ってる野手全員も、それどころか両軍選手の誰もとスタンドで死に物狂いの応援を繰り広げている球場にいる全員が目を疑ったのだ。
「マジかよ?打たれたらオワリ、だぞ~~~」
そう、拓海はセットポジションからではなくてワインドアップで投げ始めようとしているのだ。
なぜってそれは、そのフォームが最も威力のあるストレートが投げられるからに他ならなかった。
拓海はグラブに入れた右腕と、グラブを付けている左手とを自分の頭上に高々と掲げて最後の一球を投げ込もうとしていたのだ。
しかしそれはひとつ間違えば確実に英誠学園はサヨナラ負けとなる、諸刃の剣であった。
三塁ランナーがスーッと離塁し、逆転のランナーとなるセカンド走者は全速力でスタートを切った。
「カンケイない、好きにしろっ!」
拓海は動じなかった。
「不動心!」
そしてもうその時には勇士の肝もシッカリと座っていた。
「バカヤロー~~~!どんだけオマエのタマ受けてきたと思ってンダヨ!ナメンナヨ!
このオレ様がいちどでもうしろにソラシタことがあるか???どこへでも好きなとこに投げヤガレ!
どこに行こうがどこに飛ぼうが龍ヶ崎様がカタッパシから捕ってやる!」
拓海の後ろを守る英誠学園ナインの気持ちもアタリマエにひとつに固まっていた。
「拓海!オマエにマカセタ!投げたい球を全力で投げろ!行こうぜ!甲子園へ!」
拓海は左足のスパイクを頭上に届くくらいに高々と上げ、全身全霊、ありったけの力を振り絞って一気に右腕をふり下ろした。
「ビユッ~~~ん!!!」
「ゴッ~~~~~っ!」
そのボールはまるで大気圏から宇宙へと突っ込んでいくロケットのような物凄いうなりを立てて勇士のミット目がけて爆進した。
「バッちっ~~~~~ん!!!」
「メンドクせ~」と思ったんだ、オレは。
「野球部かよ~」
って。
あれからもう、一年半が経ったんだな。早いもんだ。
コイツラと出会わなかったらオレの高校生活はどんなだったろう?充実してたのか?
楽しかったのか?
「楽しくも、充実もなかったろうな。きっと。今この時、がオレが野球をもういちどやろうって思った理由なんだな!」
拓海はロージンに手をやった。手のひらに、そして甲に三度ずつ粉をはたくとそれをプレートの後方に置いた。
次の一球は高めに外れてスリーボールツーストライクとなった。
押し出しなら同点、ヒットを打たれればサヨナラ負けかもしれなかった。
これ以上ない、切羽詰まった状況にチガイナイ。カクジツニ。
健大が、祐弥が、そして亮太と護がマウンドの近くまで歩み寄って拓海に声をかけた。
「マカセろ!」
「打たせてイイぞ!」
「オマエの好きなボールで思いっ切りイケ!」
そう言うと、健大以外の三人はそれぞれ守備位置に戻って行った。
そして最後に健大だけが残った。
健大はマウンドのプレート付近の土を右足のスパイクの先で軽くほぐしながら、そしてなぜだかスコアーボードの旗を見ながら拓海に言ったのだ。
「野球をまたやってみた理由、ワカッタカ?」
拓海は燦燦と降り注ぐ太陽の下で、したたり落ちる汗を左腕のアンダーシャツで拭いながら、しかしシッカリと首をたてに振った。
「うん」
「へ~そうなのか、ワカッタのか?」
「わかったよ、ちゃんと」
「そうか、ならイイや」
健大はそれだけ言うと答えは訊こうともせずに自分の守るところへと帰ろうとしたのだけれど、ふと思い出したようにうしろを振り返えって今度はハッキリと拓海の眼を見て言った。
「甲子園、行こうな!」
いつもの健大らしい、実に意思の堅い視線だった。
再び踵を返して健大はポジションへと戻って行った。その後ろ姿はなんとも頼もしかった。
「訊かね~ってことは、アイツもオレとオナジなんだな。きっとおんなじモンヲ、さがしてやがったンダ!」
拓海は外野のほうを振り返った。
「打たせるぞ~~~!」
大きく両腕を掲げて叫んだ。
啓太が、駿斗が、そして圭介が
「マカセロ~~~!」
と同時にグラブを掲げて叫んだ。
「あいつらなら、どんな打球でもきっと捕ってくれるはずだ」
拓海はそう確信していた。
でも、そんな気持ちとは裏腹にメラメラと燃え上がって来るものを抑えずにはいられなかったのだ。
「打たせるもんか!絶対に打たせない。カスラセもしない。ど真ん中に投げ込んでやる。
打てるもんなら打ってみろ!」
守りを信用していないわけでも、ひとり相撲を取ろうというわけでもなかった。
でも、絶対に打たせるわけにはいかないんだ、ゼッタイニ!
拓海はプレートに軸足を置いた。そして大きく深呼吸してから勇士を睨んだ。
「エッ???」
いちばん焦ったのは勇士だ。
「まだサイン、出してね~ぞ。オイオイ?!」
そんな勇士のランシン?など一切容赦せずに拓海は大きく振りかぶった。
「セットじゃないって???」
勇士だけデハない。ブチョウ先生も、ダッグアウト後方に陣取るカントクサンも、守ってる野手全員も、それどころか両軍選手の誰もとスタンドで死に物狂いの応援を繰り広げている球場にいる全員が目を疑ったのだ。
「マジかよ?打たれたらオワリ、だぞ~~~」
そう、拓海はセットポジションからではなくてワインドアップで投げ始めようとしているのだ。
なぜってそれは、そのフォームが最も威力のあるストレートが投げられるからに他ならなかった。
拓海はグラブに入れた右腕と、グラブを付けている左手とを自分の頭上に高々と掲げて最後の一球を投げ込もうとしていたのだ。
しかしそれはひとつ間違えば確実に英誠学園はサヨナラ負けとなる、諸刃の剣であった。
三塁ランナーがスーッと離塁し、逆転のランナーとなるセカンド走者は全速力でスタートを切った。
「カンケイない、好きにしろっ!」
拓海は動じなかった。
「不動心!」
そしてもうその時には勇士の肝もシッカリと座っていた。
「バカヤロー~~~!どんだけオマエのタマ受けてきたと思ってンダヨ!ナメンナヨ!
このオレ様がいちどでもうしろにソラシタことがあるか???どこへでも好きなとこに投げヤガレ!
どこに行こうがどこに飛ぼうが龍ヶ崎様がカタッパシから捕ってやる!」
拓海の後ろを守る英誠学園ナインの気持ちもアタリマエにひとつに固まっていた。
「拓海!オマエにマカセタ!投げたい球を全力で投げろ!行こうぜ!甲子園へ!」
拓海は左足のスパイクを頭上に届くくらいに高々と上げ、全身全霊、ありったけの力を振り絞って一気に右腕をふり下ろした。
「ビユッ~~~ん!!!」
「ゴッ~~~~~っ!」
そのボールはまるで大気圏から宇宙へと突っ込んでいくロケットのような物凄いうなりを立てて勇士のミット目がけて爆進した。
「バッちっ~~~~~ん!!!」