空って、こんなに青かったんだ。
最終章
 拓海は自分の右腕が胴体から離れて引きちぎれてしまったのでは、と思ってそっと目を閉じた。

それくらい思いっきり、全身全霊で右腕を振りきったのだった。

そんなことは自分の野球人生で初めてのことだった。でも、不思議と痛みは感じない。

腕はくっついているようだった。

グラウンドはずいぶんと静かに思えた。いや、実際にはそう拓海が感じただけかもしれなかった。

マウンドでは投げ終わったあとに、風にそよがれたような気がした。

「ん???今のはバッターのバットが空を切った音なのかな?たしかリュウのミットが鳴った気がしたな。あいつはいつもいい音をさせて捕ってくれる。

んんん?歓声が聴こえるな~なんだかスゴイ大歓声なのに、でもどこかで静かだ。なんでだろう?

エッ?リュウのヤツがマスクをブン投げて飛び上がってこっちに来てるのかあ~???
なんだってそんなにウレシソウなんだ?

ん?リョウタが?ヒラも近づいてくるな、

んんん?護も祐弥もジャンプしながらこっちへとやって来てるのか???

外野からもみんなが走って集まって来てるみたいだな~~~

そうか、勝ったのかな?ん???

カッタンだ!勝ったんだ、オレタチ!

やっぱりあの音と風はバッターがカラぶった音と風だったんだな。そうか、カッタンダ!」


英誠学園の大応援団は歓喜号泣、万歳の大合唱。
校長先生はすでにスタンドの通路にソットウしてしまったようだった。

そしてナインが全速力でマウンドの拓海のもとに集まって来て拓海と勇士のバッテリーに
飛びついてきた。もうすでにグチャグチャだ。

ナニガ何だかわからなくなっている。

ベンチからも一斉に選手が飛び出してきた。

勝ったんだ!優勝なんだ!

ついに甲子園なんだ!

拓海たちは英誠学園創立以来、初の甲子園出場をキメタンダ!

「ヤッタぜっ~~~~~っ!!!」

拓海はナインのド真ん中で揉みくちゃにされていた。
そして、やっと輪の中で目を開いて両腕を突き上げた。

みんなの真っ黒な顔がそこにあった。

勇士、健大、護、亮太、祐弥、駿斗、啓太、圭介、星也。

ベンチを覗いたらヤスも満面の笑顔だ。

そして拓海はゆっくりと我に返って、頭上の真夏の大空を見上げた。

そこはいちめんの夏空だ。こんな夏はもう二度と来ないんだろうな。

そう思うと拓海は、今までの人生でまるではじめて気がついたような感動に包まれた。



「空って、こんなに青かったんだ!」



                            終わり



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