常務の秘密が知りたくて…
「お茶です」

 机まで運ぶと常務はこの後の会議の資料を見ていたので特にやりとりすることはない。私も反応などは期待せず踵を返す。

「少しはマシになったな」

 だから常務の独り言のように呟かれた言葉に私は反射的に振り向いたのはいいもののどうすればいいのか分からなかった。湯のみを持ったままの常務と目が合う。

「言っとくが、褒めたわけじゃない。最初がひどすぎだ」

 あからさまに馬鹿にしたような顔をされて私は眉をつり上げながらも小さく「すみません」と謝罪して自分のデスクに向かった。

 絶対に、いつかは美味しいって言わせてみせる!

 密かに闘志を燃やしながら、それでも常務に少なからず認めてもらえたことは私のやる気を一気に引き出したのだった。

 そこで目の前の電話が鳴ったので私は急いでとる。三コール以上鳴らせたら「お待たせしました」というところだが、今回もその必要はなさそうだ。

 メモにペンを走らせ電話を終えると私はそのまま常務のほうを向いて声をかける。内容は先方の都合で、今晩予定していた会食を延期して欲しいとのものだった。

「予約していたお店にはキャンセルの電話をいれますね」

「その必要はない」

「では」

「今日の夜、空いているか?」

 いきなりの質問に私は目をぱちくりとさせた。

「え、私のことですか?」

「他に誰がいるんだ。空いているんだったらちょっと付き合え」

「私がですか!?」

 いくら土壇場でキャンセルになったからとはいえ、なんだって私が代役で常務と食事をしなくてはならないのか。完全に秘書の仕事の枠を越えている。
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