常務の秘密が知りたくて…
「次は彼氏にでも連れてきてもらうんだな」

「そうですね。でも常務が連れてきてくださったのでもう十分ですよ」

 からかい混じりの常務に素直に答えると、常務は少し驚いたように目を瞠った。何か妙なことを言ってしまったのかと不安になり視線を逸らすと私はわざとらしく付け足した。

「常務こそ次は私じゃなくて、もっとそれなりに相応しい人といらしてくださいね」

 こういうのはきっと最初で最後だ。それに対し常務は何も言わなかった。この時間、タクシーは比較的によく通っているので常務が手を上げるとあっさりとハザードランプをつけて停まってくれた。

「お疲れ様です、お気をつけて」

 乗り込む前の常務に声をかけると思いっきり怪訝な顔をされる。

「お前も乗るんだよ、先に送っていく」

「そんなお気遣いなく! 私もすぐに別のタクシーを拾いますから」

「二度手間だろ、いいから早く乗れ」

 タクシーの後部座席のドアが開いたまま中年の運転手が苛立ちを含んだ顔でこちらを窺っていた。そんな状況にも後押しされ私は渋々と常務と後部座席に乗り込む。

 運転手に目的地を尋ねられ私は躊躇いつつも大体の目ぼしい場所を告げた。これだけは本当に回避したかったシチュエーションだったというのに。

 黙りこくって冷や汗を流している私を不審に思ったのか常務から声がかかる。

「そんなに心配しなくても送り狼になるつもりはないぞ」

「いえ、そういうことでは……」
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