常務の秘密が知りたくて…
 改めて自分の手を見る。掴まれていたところを触るとなんだか気恥ずかしさが襲ってきて、それを払い除けたくて軽く首を振る。しなくてはならないことは山ほどあるのだ。

「緊急の会議が入った。少し出てくるから後は頼む」

「かしこまりました」

 電話を終えた常務は端的にそう告げると早足で部屋を出ていく。いつものように立ち上がって返事をするも、急いでいたのもあるのだろうが余計なやりとりは一切なかった。

 そもそもあんなやりとりがイレギュラーだっただけで、もう掘り返すこともないだろう。それでも常務に問いかけられた言葉がしばらくの間、頭の中でリフレインしていた。

 それから常務が会議を終えて帰ってきたのは昼前だった。私は預かった言伝てを告げるため、席を立って常務の机に歩み寄る。あまりよくない会議の内容だったのか常務の眉間の皺は刻まれたままだった。

「あんまりそんな顔ばかりしてたら、戻らなくなっちゃいますよ」

「元々こんな顔だ」

 報告を終えた私に対し椅子に乱暴に座りながら常務は不機嫌そうに呟く。毎度のことながら背もたれが悲鳴を上げているのを見て、私は軽く肩をすくめた。

「おい」

 そんな態度が気に障ったのかと背筋を正したが、常務は私の方に向けて机の上にあるもの置いた。

「なんですか、これ」

 差し出されたのはネックレスでも入っていそうな横長の箱で金色の包装紙に茶色いリボンがかかっていた。
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