常務の秘密が知りたくて…
「気を遣わなくてかまわない」

「そういうわけではありません。ただ」

 私は常務を一瞥した。そして一拍置いてから口を開く。

「ただ常務から頂けるなら喜んで受けとります」

 あまり深くは考えずに告げた言葉になんだか面映ゆくなる。これは取りようによっては、かなり大胆な発言だ。

 何か言われるかもしれないと思って身構えたが常務は机の上に置いていたチョコレートの箱を手に取ると改めて私に差し出した。

「ほら」

「ありがとうございます」

 緊張して受け取りつつも常務はそれ以上何も言わなかったので私は自分のデスクに戻った。昼休みになってから箱を開けてみると四角いチョコレートが五つほど顔を覗かせていた。

 大きさも形も同じだが、端だけ色のついたチョコでコーティングされているのでどうやら中身が違うようだ。ここは端から順にと思い淡緑のコーティングがかかってるものを選んでかじってみる。

 どうやらギモーヴをミルクチョコレートで覆ったものらしく一口噛むと、表面のチョコがパリッと割れてしゅわしゅわの柔らかい食感が面白かった。

 チョコレートの甘さの次にライムの爽やかな味が口内を一気に支配する。思ったよりも甘くはなく口当たりも軽い。

 もし私がもらうのを断っていたら常務はこれをどうしていたんだろうか。さすがに捨てたりはしないだろうから私ではない誰かに、別の女性にあげていたのかもしれない。それが面白くなかった。

 それだけであまり好きではない甘いものをもらうなんて。この気持ちの正体が自分でもよくわからないまま私はもう一つと手を伸ばした。
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