常務の秘密が知りたくて…
 翌朝、私は会社で届いた花を水揚げしていた。今までそのまま茎の根元を切っていたけど、こうやって水につけた状態で切ることが大事らしい。

 相変わらず冷たい水が手に染みるがそれはもう慣れてしまった。それから勿体ないけど余分な葉を取り除くのも花を長持ちさせるために必要なことなんだとか。

 昨日見た光景が何度も頭に過ぎるのを振り払い、本で学んだ通りのことを実践して花を花瓶に生けていく。長いものと短いものを交互に挿してバランスを見て、いつもより慎重に整えていく。

 少しは常務も納得してくれるだろうか。前が酷すぎたというのもあるんだけど。

「朝から張り切ってるな」

 給湯室のドアのところから不意に声がかかり、心臓が跳ね上がった。今、出社してきたばかりであろう常務がドアにもたれかかってこちらを見ている。声をかけられるまで全くその存在に気付かなかった。

「おはようございます、申し訳ありません。すぐに支度を」

 丁寧に生けていたのはいいが、思ったよりも時間がかかってしまっていたらしい。ばたばたしながら片付けようとしていると常務がこちらに近付いてきた。

 コートをまだ着たままだったのだが、それが昨日見たものと同じだったので私は勝手にそちらに視線がいってしまった。

「こっちの花は?」

 なので花瓶に生けずに傍にとってあった花のことをいきなり指摘されたので慌てる。

「量が多かったので別々に飾ろうかと。私、この花が好きなんです」

 すると常務は意外そうな顔をして、まだ新聞紙の上に置かれている花たちを凝視した。そしてその視線は私に向けられる。私が花が好きだというのがそんなにおかしいのだろうか。余計なことを言ってしまったかもしれない。
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