常務の秘密が知りたくて…
 秘書にしている女性はいつも美人で秘書以上の関係だということ。でも特定の女性とはあまり長続きせずに顔ぶれはしょっちゅう変わるらしい。

 これだけなら悪い印象しか抱かないはずなのに、そこは外見のよさからくるイメージなのか仕事が出来るからなのか。それに付け加えられる文句は「常務なら無理もないよね」というものや「遊びでもいいから寝てみたい」なんてものだった。

 そしてもう一つ聞いた常務の話、それはどこか変わっていたので色々聞いた中でも頭にはっきりと残った。常務は女性の寝顔がすごく苦手だということ。

 自分の寝顔を見られること以上にそれは徹底して避けていることらしい。泊まるのが面倒な言い訳なのでは、なんて意見があったがどっちにしても私には関係のない話だった。

 勝手に恋心のような憧れを一方的に募らせた。だからその気持ちを終わらせるのも私自身の問題だ。常務は何も知らない、何も悪くない。同じ会社でも滅多に会うことがないような人だ。どこから湧いたのか全くわからないこの感情を私は固く蓋をして心の奥底に沈めることにした。

 そんな想いが揺れたのは二ヶ月前の暑さも落ち着いた頃の話だ。その日秘書課は朝から慌ただしかった。恒例の社内視察を今回は社長ではなく常務が行うという話が課長からあったからだ。社長とは違う意味で緊張が走り、主に女性社員たちは浮き足立っていた。

 誰がお茶を出すかで何人かが挙手して名乗り出る。奥の来客用の部屋で課長から日頃の業務内容や課の様子などが報告されるが、そこに至るまで手の空いている社員は顔見せがてら花道を作るのが定番だ。

 ただ同じフロアとはいえ、みんながみんなそちらに出払うわけにはいかないので私はその間の電話番を名乗り出た。自分の常務に対する気持ちは一時の気の迷いで今はなんとも思っていない。

 そう思っているくせにこの土壇場になって私はやっぱり怖じ気づいた。常務を直接見るのが怖くて逃げるような私の申し出に反対する人は誰もいない。
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