常務の秘密が知りたくて…
「え?」

 訳がわからずに首を左右に振る。パソコンの画面だげは煌々と光っていて逆に不気味だ。しかし、そこから距離があるし照らしている方向が違うのであまり役に立たない。

「大丈夫か?」

 常務に冷静に声をかけられて私は息を吞んだ。立っているだけなのに平衡感覚がどことなくおかしい。眩暈を起こしてしまいそうな感覚に私は足に力を入れた。

「私、他の部屋見てきます。残っている社員がいるかもしれませんし、非常灯なら点いていますから」

 それはこの部屋も同じだが、あまり当てにならない。じっとしていても不安を煽るだけだ。部屋の構図と自分の立ち位置を頭の中でもう一度描いて足を動かそうとしたとき、いきなり左手首がとられた。

「行くな!」

 不意打ちな力のかかり具合に少しだけ身体のバランスを崩しそうになる。常務にしては珍しく声を荒げたので私は手を掴まれたことよりそっちの方に驚いた。

「そんな、すぐに戻ってきますよ」

「行かなくていい、傍にいろ」

「でも」

「いいから、言うことをきけ」

 どこか必死な常務に私は腕を引かれるままその隣に腰を下ろした。肩が触れそうで、いつもより距離がずっと近いのがわかって緊張する。張り詰めた空気を壊すために私はあえて明るく質問した。

「常務、もしかして暗いのが怖いんですか?」

「そんなんじゃない」

 ぶっきらぼうに返ってきた返事は強がりでもなんでもなく、いつもの調子だった。見えないのに今、常務がどんな表情をしているのか簡単に想像がつく。
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