常務の秘密が知りたくて…
「そうですね、常務って怖いものなさそうですし」

 やれやれ、といった感じで答えた。けれど

「そんなわけないだろ」

 静かにそう返されて私は固まってしまった。しばらく沈黙が二人の間に流れる。

「なんだ」

「常務にも怖いものがあるんだなって」

 不機嫌そうな常務の声に私は抑揚なく答えた。すぐ隣から刺さるような視線をひしひしと感じる。

「悪いか?」

「いいえ。私にも怖いものたくさんありますから」

 それだけ告げるとまた沈黙が包む。何が常務の怖いものなのか聞きたい気もしたが、それには触れなかった。

 さっきから一応、言うことをきいて大人しく隣に座っているのに、常務の手は私を離さない。でも私も振りほどこうとは思わなかった。こうしてつかまえていて欲しかった。出来れば、それは今だけじゃなくて――。

 耳鳴りにも似た機械の起動音とお互いの息遣いがいやに耳につく。はっきりとは見えないけれど徐々に暗闇にも目が慣れてきた。だから

「常務は、私のことを……」

 顔が見えないのをいいことに、ぽろっと心の奥底から溢れそうになった言葉を急いで止める。それでも私は乾いた唇を再度動かした。
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