常務の秘密が知りたくて…
 目を開けると、見慣れない天井が視界に広がった。うちのアパートは木目でもっと天井が低かったはずだけど。

「気が付いたか?」

 不意に耳に飛び込んできた声に私は反射的に身を起こそうとした。が、眩暈を起こして頭を元の位置に渋々と戻す。

「調子悪そうだとは思ってたが、まさかぶっ倒れるとはな。体調が悪いなら休めばよかっただろ」

「帰ってから、休む予定だったんです」

 切れ切れに答えてゆっくり目だけ動かすと、どうやら来客用のソファに寝かせてもらっていたらしい。常務は背もたれの方から顔を出してこちらを見下ろしていた。

「お手数をおかけしてすみませんでした。今日は帰ります」

「そんな体調ですぐには無理だろ」

 呆れたような声もどこか遠くから聞こえる気がする。それでも私は身体を起こそうとした。そこで常務の上着をかけてもらっていたことに気付く。

「少し休んでいけ。後で送ってやるから」

「大丈夫です。すみません、大変なときに」

 上半身を起こしたところで身体は重く頭も痛い。それでも常務の方が疲れているだろうに、こんなことで迷惑をかけるなんて秘書失格だ。

「少しは人の好意に甘えたらどうだ?」

「常務の好意は随分と手広いんですね」

 声につい棘を含ませてしまう。なんでもない常務の優しさが辛くて、体調の悪さも相まってどんどん心は頑なになっていく。常務に対する気持ちは今は余計なものだと言い聞かせたばかりなのに、上手くコントロールすることが出来ない。
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