常務の秘密が知りたくて…
そして半信半疑だった異動話は正式な通知がなされ翌週から、わけがわからないまま私は常務の秘書として配属されることになったのだ。
初めて訪れる常務の部屋の前で私は何度も深呼吸を繰り返し意を決してドアをノックした。中から返事があり「失礼します」と告げて扉を開ける。
部屋は真ん中に来客用のテーブルとソファがありその奥に常務の机があった。右側には膨大な資料や本などが背の高い棚にびっちりと並び、左側には常務よりも二回りほど小さなデスクが鎮座している。
恐らく私の、秘書の仕事場なんだろうなと考えながら常務の机の前まで歩いた。
「今日から秘書として配属されました白須絵里です。どうぞよろしくお願いいたします」
お辞儀をした後、見ていた書類から顔を上げた常務と目があった。無言のまま全身を値踏みするように見つめられ今更ながら身がすくむ。一体なんなんだろうかと思いつつもそれを顔に出さないようにやり過ごした。
「仕事内容はここにまとめてある」
「はい」
仏頂面のまま手渡されたファイルを受け取り、ざっと目を通す。
「何か質問は?」
まだ質問できるほど仕事内容も把握できていないというのに。暗に早くしろと言われた気がしてファイルを捲るペースを上げる。秘書課に所属していたし特段難しいことは書かれていないようだが、それでも自信はない。
「あの」
「なんだ?」
常務の鋭い目付きに一瞬、怯んだが私にはずっと気になったことがあった。どうしてもこれだけは訊いておきたい。
「どうして私を秘書に?」
消え入りそうな声で尋ねてみると常務の眉間の皺がますます深くなった。
「人事に関しての情報は開示できない。分かったらさっさと仕事しろ。お前の仕事場はあそこだ」
「は、はい」
食い下がることも出来ずに私は頭を下げてデスクに向かおうとした。入社式で常務に抱いた感情が嘘のように、今はそんな気持ちが沸くこともなく緊張で背中に嫌な汗をかくばかりだ。本当にどうして私が秘書に……。
初めて訪れる常務の部屋の前で私は何度も深呼吸を繰り返し意を決してドアをノックした。中から返事があり「失礼します」と告げて扉を開ける。
部屋は真ん中に来客用のテーブルとソファがありその奥に常務の机があった。右側には膨大な資料や本などが背の高い棚にびっちりと並び、左側には常務よりも二回りほど小さなデスクが鎮座している。
恐らく私の、秘書の仕事場なんだろうなと考えながら常務の机の前まで歩いた。
「今日から秘書として配属されました白須絵里です。どうぞよろしくお願いいたします」
お辞儀をした後、見ていた書類から顔を上げた常務と目があった。無言のまま全身を値踏みするように見つめられ今更ながら身がすくむ。一体なんなんだろうかと思いつつもそれを顔に出さないようにやり過ごした。
「仕事内容はここにまとめてある」
「はい」
仏頂面のまま手渡されたファイルを受け取り、ざっと目を通す。
「何か質問は?」
まだ質問できるほど仕事内容も把握できていないというのに。暗に早くしろと言われた気がしてファイルを捲るペースを上げる。秘書課に所属していたし特段難しいことは書かれていないようだが、それでも自信はない。
「あの」
「なんだ?」
常務の鋭い目付きに一瞬、怯んだが私にはずっと気になったことがあった。どうしてもこれだけは訊いておきたい。
「どうして私を秘書に?」
消え入りそうな声で尋ねてみると常務の眉間の皺がますます深くなった。
「人事に関しての情報は開示できない。分かったらさっさと仕事しろ。お前の仕事場はあそこだ」
「は、はい」
食い下がることも出来ずに私は頭を下げてデスクに向かおうとした。入社式で常務に抱いた感情が嘘のように、今はそんな気持ちが沸くこともなく緊張で背中に嫌な汗をかくばかりだ。本当にどうして私が秘書に……。