常務の秘密が知りたくて…
「何言ってんだ、お前が俺の」

「秘書だからって優しくしてくれなくて結構です!」

 常務の言葉を防ぐように私は叫んだ。すると常務がわざとらしく大きなため息をついたのがわかり、それを聞いて堰き止めていた何かが溢れ出す。

「私は、代わりなんですか?」

 突拍子もない発言に常務の瞳が揺れた。堪らなくなって私はぐっと俯く。坂本様や堀田さんに言われたこと、そしてこの前の常務の発言。色々考えて常務がどうして私を秘書にしたのか、その理由がなんとなくわかってしまった。

 私は今までの常務の秘書たちとタイプが違う。それなのに常務が初対面なのにも関わらず私を選んだのだとしたら。

『えり……』

 あのとき私の名前を呼んで手を取った常務は今まで聞いた事もない柔らかい声だった。咄嗟に自分の名前が呼ばれたのかと驚いたけど、そんなはずはない。私は常務に名前はおろか苗字ですら呼ばれたことはない。

 それに、あんな優しい表情を私に向けてくれるわけがない。今まで見たことがないような顔だった。

 私は誰かに間違われたのだ。それが誰なのかなんて考えるまでもない。常務には忘れられない女性がいると言っていた。だから誰にも本気になれないんだって。私はきっとその人と同じ名前で、きっとどこか似ているんだと思う。

『正直、仕事面では、あまり期待はしていなかったが、想像以上にお前はよくやっている』

 そう言われてあのときは純粋に喜んだけど、冷静になって考えてみれば、なら私は何を期待されていたのか。秘書にしてまで傍においておく理由に何があるのか。
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