常務の秘密が知りたくて…
「――ないのか」
独り言のように背中にぽつりと投げ掛けられ私は身を翻した。
「何か仰いましたか?」
「いや」
常務に向き直ると視線は既に書類に釘付けだった。気のせい、だったのかな? とにかくパソコンを立ち上げてファイルに書かれている通りにセットアップしていく。
今までこの机に何人の女性たちが座ってきたんだろうか。まさか自分が常務のこんな近くに座ることがあるなんて。実感がわかないまま、仕事の流れを覚えることに意識を傾ける。
しかしいくらファイルに事細かく仕事内容が記されているとはいえ、それだけではわからないことだってある。ここにいるのは私と常務しかいないわけで、尋ねる相手は常務しかいない。
こういうのって普通は引き継ぎとかあるもんじゃなかろうか。もしくは同じく秘書をしている人からの説明とか。しばらく悩んだあげく私は席を立った。
「常務、お忙しいところをすみません。いくつか仕事の事でお訊きしたいことがあるのですがかまいませんか?」
内心びくびくしながら声をかけると常務は軽く息を吐いて立ち上がった。
「何だ?」
「ここに書いてあることなんですが――」
意外にも、というと失礼かもしれないが表情は相変わらず仏頂面のまま常務は質問に一つ一つ丁寧に答えてくれた。
「俺も暇ではないんだ。とっとと覚えないと承知しないぞ」
「はい、ありがとうございます」
説明が終わり席につこうとしたときだった。
「おい」
呼び止められて急いで振り返る。
「何でしょうか?」
躊躇ったような表情を見せたが、すぐにいつもの表情で常務はぶっきらぼうに言い放った。
「それ、やめろ」
言われた意味が理解できない。いきなり指示語を使われても思い当たる節が浮かばない。
独り言のように背中にぽつりと投げ掛けられ私は身を翻した。
「何か仰いましたか?」
「いや」
常務に向き直ると視線は既に書類に釘付けだった。気のせい、だったのかな? とにかくパソコンを立ち上げてファイルに書かれている通りにセットアップしていく。
今までこの机に何人の女性たちが座ってきたんだろうか。まさか自分が常務のこんな近くに座ることがあるなんて。実感がわかないまま、仕事の流れを覚えることに意識を傾ける。
しかしいくらファイルに事細かく仕事内容が記されているとはいえ、それだけではわからないことだってある。ここにいるのは私と常務しかいないわけで、尋ねる相手は常務しかいない。
こういうのって普通は引き継ぎとかあるもんじゃなかろうか。もしくは同じく秘書をしている人からの説明とか。しばらく悩んだあげく私は席を立った。
「常務、お忙しいところをすみません。いくつか仕事の事でお訊きしたいことがあるのですがかまいませんか?」
内心びくびくしながら声をかけると常務は軽く息を吐いて立ち上がった。
「何だ?」
「ここに書いてあることなんですが――」
意外にも、というと失礼かもしれないが表情は相変わらず仏頂面のまま常務は質問に一つ一つ丁寧に答えてくれた。
「俺も暇ではないんだ。とっとと覚えないと承知しないぞ」
「はい、ありがとうございます」
説明が終わり席につこうとしたときだった。
「おい」
呼び止められて急いで振り返る。
「何でしょうか?」
躊躇ったような表情を見せたが、すぐにいつもの表情で常務はぶっきらぼうに言い放った。
「それ、やめろ」
言われた意味が理解できない。いきなり指示語を使われても思い当たる節が浮かばない。