常務の秘密が知りたくて…
 思いっきり舌打ちして机を叩く。物に八つ当たりしたところで何も変わらない。あのとき死ぬほど後悔したのに、また同じだ。

 でもどうすればよかったんだ? 彼女が決めたことを俺が口出す権利なんてあるのか? 俺はまたこうやって失うのか。

 部屋に静寂が舞い戻り、それを裂くような電話の呼び出し音がいつもより大きく聞こえた。苛立ちを隠せないまま受話器を上げるとよく知る声が耳に届く。

「まいどー」

「取り込み中だ」

 反射的に即効で受話器を置こうとした。

「え、ちょっ、絵里ちゃん結局どないしたん?」

 しかし彼女の名前が出たことで寸のところで切るのをやめて再び受話器を耳に当てる。電話の相手は言うまでもなく坂本だった。

「あいつと何か話したのか?」

「話したというか、堀田のことで相談に乗って欲しいって電話もろてて」

 いつの間に連絡先を交換したんだ、という言葉を喉元まで出かかって飲み込む。なんで俺ではなくこいつに相談したのかという苛立ちを抑えながら尋ねた。

「それでお前はなんて言ったんだ?」

「絵里ちゃんの好きにしたらええんとちゃう? って。あまり役に立つことも言えんかったけど、そんでどういう結論を出したんかなぁと思って」

「……堀田のとこに行くことにしたらしい」

「長丘はそれでええの?」

 まさかそんな風に尋ね返されるとは思ってもみなかったので俺は一瞬、言葉に詰まった。
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