リーダー・ウォーク
話を聞かない男たち
ランチを終えてまったりとそのまま個室でお昼休憩中。
稟は誘われるままに会社を見学に来ただけで本来はお休みの日だけど、
松宮はまだ途中で時間が来たら会社へ戻り夕方の定時まで仕事がある。
忙しそうだからもしかしたら今日は残業かもしれない。
「俺も昼から休もうかな」
「駄目ですよ」
恥ずかしいから嫌だって言ったのに少しだけだとお願いされて
断っても延々と強請られて、結局折れて渋々膝枕中。
下を見るとすごく照れるから見ないようにメニューを眺めている稟。
「これ自前?前の仕事の?」
「そうです。会社は制服だったけど」
「そうなんだ」
「昔のだからちょっと古臭いかもしれないですけどね」
「悪くない。いっつも似たような格好しか見てないから新鮮だな」
「崇央さんの会社のOLさんたちは皆身なりが綺麗。秘書さんは美人だし」
あまりまじまじとは見てないけど、それでもすれ違う人は自分磨きに余念のない
まさに絵に描いたような都会の有名企業で働くキャリアウーマン。
反対に自分はどう見えたんだろう、上京してきたオノボリ丸出しだったかもしれない。
もう2年たっているはずなんだけど。身なりには殆どこだわってはないから。
「稟が秘書ならいいのにな」
「嫌ですよ。私緊張するとトイレから出てこなくなるから」
「マジか。度胸据わってんのに」
「そんな事ないです。崇央さんたちなら話せるけど。他の人は」
「たちって。上の連中?……いや、それで十分じゃないか?」
「3人とだけ仲良くてもお仕事する上ではしょうがないでしょ」
「それもそうだけど」
「ほら。あと10分でお昼休憩終わりますよ。戻りましょ」
「…あと5分」
「だめ」
「3分」
「だめ」
膝枕のまま動く気配のない松宮をなんとか説得し店を出て会社に戻る。
このままずっと自分がそばにいると彼は仕事をサボるかもしれない。
頃合いを見て1時間くらいで脱出するべきだろう。
会社の見学をしたら彼も満足するだろうし。
稟としても本来の目的が果たせて万々歳。
「ここが俺の部署。で。ここが俺の部屋。俺の席」
「広いですね」
こうして始まった二度目の見学会。まずは松宮の部署の彼の部屋。
広く小綺麗なオフィスの中でも個室が用意されていて専用のデスクにソファ。
「何処も似たようなもんだ。朝引っ掻き回されたせいでちょっと慌しくて悪いな」
「いえ。…あ。チワ丸ちゃんの写真だ」
「忙しさにかまけてあいつを疎かにしないように」
机の上には小さいころのチワ丸の写真。あと稟が送った初首輪をした写真。
「じゃあ私の写真もこの辺に」
「あんたがいいなら飾ってやるよ。その代わり、ここには取引先の連中から部下から」
「じ、冗談です」
「そうか?じゃあ、気が向いたら写真ちょうだい」
自分で言ってなんだけど、これは自爆だった。