リーダー・ウォーク

翌日は筋肉痛で足腰が痛んだ。やっぱりマッサージ行くべきだったかも。

『仕事はどう?無理してない?トリマーってずっと立ってるんでしょ?』
「そうだけど突っ立ってるわけじゃないから。慣れてきたし」

追い打ちをかけるように昼間は晴れていたのに夜になって雨になった。
仕事から帰ってきてからだったからセーフだけど、ちょっと憂鬱な気分で
何をする気にもなれず部屋でゴロゴロしていたら久しぶりに母親からの電話。

『そう。ああ、そうだ。試験はどうだった?なんだっけ?愛玩動物…みたいなの』
「あ。うん。この前受けてきた。結果はまだ出てないけどたぶん大丈夫」
『よかった。今度そっちへ行ったら色々と教えてもらおうかしらね』
「こっち来れるの?何時いつ?」
『お父さんとも話しててね、今月中には行けるかしらね』
「わかった。また決まったら言って。びっくりすると思うな―」

上京をしてからは旅費をケチって一度も里帰りしないで2年。
それまではずっと親元でぬくぬくと生きてきたから最初は寂しかった。
だから親が来てくれるのは正直嬉しい。
前回来てくれたのは上京して数ヶ月目に風邪に罹って動けなくなった時。
だからもうまるまる1年はちゃんと顔を見てないことになるか。

『稟が幸せならそれでお父さんもお母さんも良いの。でも体には気をつけてね』
「まだギリギリ20代だから大丈夫だよ。お母さんこそ気をつけてね」
『そっちで誰かいい人は居ないの?』
「へ!?」

いい人ってつまり、彼氏ってことだよね?

何故いきなりその話題?

『実はそっちへ行くのは稟の様子が知りたいのと、見合い写真をね?
幾つか持って行こうと思ってるの』
「し、写真!?」
『田中さんの所の長男さんと篠田さんの所の次男さんにお父さんの会社の部下の』
「まままま待って!待って!そんな一気にお見合いとか無理だって!」
『だから一人に絞ってもらって』
「か。…彼氏は、その、…い、…居ないことはないの」
『居るの?』
「う、うん。…そういう感じ」
『どっちなの?居るならお断りするけど。そうじゃないなら』
「居る」
『まあ。そうなの?じゃあ紹介して貰わないとね。お父さん複雑でしょうけど』
「だよね」

こっちで彼氏を作ってしまったらヘタしたら一生実家には戻らないかもしれない。

いや、そうじゃなくて。

『また詳しく教えてね』
「うん…」

どうしよう言ってしまった。けど言わなきゃ見合い写真見せられて選ぶことになる。
そんなものはさっさと断ってしまえばいいのだろうけど。
どうしよう、紹介とかそんな事勝手に決めちゃって良いんだろうか。

呆然としている所にすかさず携帯が鳴るものだから思わず体が跳ねる。

『何時まで電話してるんだよ。ずっと話し中だったぞ』
「わ、私だって電話くらい」

電話の主はひどくご機嫌斜めだ。
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