リーダー・ウォーク

何時もはちょっと休憩をしてからのんびり着替えてお店を出る。
けれど今日は予定が入っていたから急いで仕事を終えると店を出た。
先輩からは「デート?」なんて聞かれたけれどそうじゃない。

苦い過去と向かい合うなんて、ちょっと勇気のいることをするのだから。

予定のお店は駅の近くにあるカフェ。時間が微妙だから客もそう多くない。
既に相手は席についていて稟の姿を確認すると笑顔で手を振る。
あの優しい笑顔で何時も辛い時は励ましてくれてたことを思い出す。

「稟。こっちこっち。ごめんな変な時間で」
「ううん。大丈夫」

彼は松宮のような家柄も容姿も申し分ない男じゃない。いたって普通。
だけどやっぱりこうして向い合っていると胸がジンとする。
彼との良い思い出が多すぎるのかもしれない。

「昨日はほんと偶然だったよな。メールとかしようかなって思ってたんだけど。
いきなりしたら悪いかなって思ってみたりしてさ。けど、よかった会えて」
「すごい偶然だったね」

チラっと店内を見ると松宮は居ない。あんな目立つ人居たらすぐわかる。
たぶん4時なんて微妙な時間だから仕事が忙しくて来れなかったのだろう。
ちょっとだけ安心したような、不安なような。

「都会生活結構楽しんでそうだな、昨日はすごい垢抜けててびっくりしたよ」
「昨日はたまたまだよ。サロン行ってそこでメイクもしてもらっただけ」
「おばさん凄い心配しててさ。帰ったら伝えとくよ」
「…うん」
「ほんと、2年で変わるもんだな。…綺麗になった」
「ちょっと化粧しただけでそんな変わらないよ」
「そうじゃない。やっぱ、自分の意志で仕事辞めて自分の好きなことするって決めた
稟は芯が強いっていうかさ。俺にはそういうの出来ないから、羨ましいよ」
「そうかな」

夢を追いかけての都会暮らしも松宮と出会うまではギリギリだった。
何時までもつかわからないくらい。
だけどそれを彼に説明するつもりはない、ただ笑ってごまかす。

「俺は相変わらずあの会社でのんびりやってるよ。ほら、前に紹介したマユも
事務員として入ってきてさ。オバちゃんと男むさい会社に花が咲いたというか」
「彼女と同じ会社ならずっと一緒で楽しいじゃない。よかったね」

ズキンと胸が痛い。けど、我慢して笑ってみせる。

「稟、お前彼氏居る?」
「え?どうしたの急に」
「居ないなら、……俺、お前と」
「ゴホンッゴホッゴホッ!」

突然稟のすぐ後ろの席から不自然にも程がある咳払い。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ振り返ったら見覚えある後ろ姿。

適当な距離じゃなくて後ろの席に座るとかどんだけ近いのこの人。

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