リーダー・ウォーク
「なあ、稟?…俺たち、付き合ってるんだよな?」
「……そうですね」
「で、俺はキスがしたいつったよな?」
「……そうですね」
「じゃあこの手は何だ」
稟を抱きしめようと迫る松宮の手を稟の手が迎え撃つ。
その姿はさながら暴漢に襲われたのを必死に逃れようとする女子。
流石に女相手に力任せの本気で抑えこむ事はしないけれど。
プロレスの睨み合いみたいになってきて流石にウンザリした顔になる。
「崇央さんだって大型犬が顔に向かって飛びかかってきたらこうするでしょ」
「そうかもしれないが俺は犬じゃねえつってんだろ」
「キスするけどそんな真顔で襲いかかってくるのは怖い」
「人を犯罪者みたいに言うな。がっついて見えるって事なら、がっついてるさ。
俺は稟とキスがしたいんだって何度も言ってるってのに無視しやがって」
「……します。しますから。お願い。3歩下がって」
キスするって言いましたよ、何処でもするって。もちろん常識の範囲内で。
だけど大好物のおやつを発見したワンコなみに突撃されたら怖い。
彼は稟の言葉に渋々頷いて3歩下がる。
「待つのが嫌いな俺がこんだけ待ってやってんだ。これで嫌とか言うなよ」
「目閉じて」
「ほら」
迫られてするよりは自分からしたほうがいいと稟からの軽く触れるキス。
「……足りない?じゃあ、チワちゃんも加えるからまって」
「あいつにはいっつもアホみたいに顔をベロベロにされるからいい。
ほら、稟。もっと。……もっと出来るだろ?キスして」
結局、今はこれくらいにしてやる、と言われて解放されるまで延々と
軽い触れるキスを何度もやらされた。
足を伸ばすのも顔をぐっとあげるのも疲れるのでもう二度としない。
「お茶淹れますね」
「よろしく。あ。チワ丸の水もちょうだい」
「はい」
ギスギスしてたのがちょっとだけ暖和された所で休憩。
リビングのソファに座って背伸び中の松宮。ずっと運転して疲れているはず。
朝食の用意は失敗したけど、連れて来てもらったのだし何かしないと悪いだろう。
松宮にはお茶を、チワ丸にはお水とトイレの設置におやつ。
「なあ、どうする。昼飯食ってからチワ丸の散歩がてら遊歩道行くか。
それともランに行って遊ばすか。他の犬が居たらちょっと嫌だけどな」
「チワ丸ちゃんエステに行くんじゃなかったんですか?」
「ああ、でも予約したのは5時からなんだ」
「遅い時間なんですね?」
「昼間から俺とベッドに行きたいってなら昼でも良いけど?」
「……あ。そういう」
「あいつにメスを充てがう予定はないからな。可哀想だろ?寝てる側で俺達が」
「はいはいはいはい。そうですね。わかりました」
そういうコースなんですね。ああ、また睨み合いをやりそうだ。
「なあ、稟。飯の時間まで膝枕して」
「どうぞ」