リーダー・ウォーク

「そういえばチワ丸ちゃんと何か見せてくれるんじゃなかったんですか?」
「あ?ああ。やろうと思ったけど、本格的にランデビューする時にした」
「なるほど。楽しみですね」
「だろ?もっと磨きをかけて驚かせてやる」

食べなれないお洒落な食器に料理に苦戦している稟を他所に
綺麗に汚さずにフォークを操り食べる松宮はやはり育ちがいい。
出来だけボロを出さないようにしているけれど、怪しいかもしれない。

「そうだ。チワ丸ちゃん、ごはんどうです?」
「食った食った。すげえ食った。だから今までの飯とその食ったので
ローテーションしようと思ってんだ。あんまりアレコレ変えるのは良くない」
「良かった。あれでもダメだったら手作りもいいかなって思ってたんです」
「自分であの不味い粒つくんの!?」
「カリカリじゃなくて人が食べる食材を味付けしないで作るんですよ」
「はあ。マジかよ。…そりゃ流石に面倒そうだなぁ」
「そうですね。毎日となるとちょっと厳しいかも」

でも最悪、稟が簡単なものを作ってチワ丸に食べさせて食いついてくれたら
そのレシピを渡して作ってもらおうとまで思っていた。
でも、あのお試しパックの中に食いついてくれるモノがあってよかった。

「いいよ。ここは俺がもつから」
「すみません。凄い図々しい物を頼んでしまって」
「はあ?なんで?…ま、いいわ。先にチワ丸みてきて」
「はい」

お会計はやはり松宮がまとめてやってくれた。
彼の食べたものよりも高いものを選んでしまうなんて、本当に図々しい。
良い経験が出来たけれど。鍵を受け取り先に外へ出てチワ丸の元へ。
店員にお礼を言ってドアを開けると元気そうに走り回るチワ丸。

「チワ丸悪かったな。帰ってご褒美だ」

そして松宮も車に戻り、彼に鍵を返す。

「今日はありがとうございます。凄く楽しかったし、勉強になりました」
「誘ったのは俺だし、つきあってもらって悪かった」
「いえ」
「助かった。俺、チワ丸の事を理解してやりたいからさ」
「松宮様」
「店の外くらい様付けはやめてくれないか?崇央でいいよ」
「と、とんでもない」
「いいから。チワ丸もチワでいいし」
「え」
「さっきドッグランでチワって呼んでたろ」
「も、申し訳ございませんっ」
「いいって。…な。そうしてよ。店の外だけでいいからさ」

そんな爽やかな笑みで言われると困るというか、照れるというか。
だけどお客様に馴れ馴れしくないだろうか。いいのかな?

稟は明確な返事は出来なかった。

だけど押しに押されて、かるーく頷いてしまう。

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