リーダー・ウォーク
「毎回いうけど、取り扱いには気をつけてね吉野さん。
何かあったら貴方だけの問題じゃなくなるんだから」
「はい」
「松宮様はただ知らないだけかもしれないから
ここじゃなくてもっと高級なサロンへ行くように誘導するの」
「はい」
翌日、稟がお店に出勤すると苦い顔でオーナーが言う。
店は全国区で展開する有名なペットショップのFC店。
開いて5年目とまだ歴史は浅いけれど、品揃えとやすさで少しずつ
売上は伸びていて、オーナーとしても今以上に更に売上をあげて
本社内で名を上げたいという野心はあるのだろう。
その前にこんな所で足を引っ張られたくないのだとは思うけど。
稟だってサロンを調べてまとめた紙を作ったのに、
松宮には受け取ってもらえなかった。これ以上どうしろっていうのか。
「大変だね。あんな嫌味ったらしく何度も言わなくてもいいのに」
「仕方ないです、私はまだ新人だし」
「シャンプーだけだし。あのお客さん、吉野さんを頼って来てるんだから。
無理に水差すほうが失敗すると思うけどな」
トリミングルームに入ると先輩がトリミング中。
やはり何時見ても先輩はカットが綺麗。
自分もいつかは、と思うけれど。難しいかな。
掃除をして片付けをして、お店の子犬をシャンプーして。
慌ただしく時間は過ぎていく。
「忙しい?」
「どうかしました?」
閉店10分前。
片付けの準備に入る頃に走って店内に入ってくる影。
稟に向かって走ってきて、何事かと振り返ると松宮だ。
もしかしてチワ丸に何かあった!?
「チワ丸がさ、…やたら欠伸すんだけど。なんでかな。眠いのか」
「今、チワ丸ちゃん。何処で何をしてますか」
「今日は上の連中がついて来いって煩いから爺さんどもと酒のんで。
でもアイツをひとりには出来ないから。車に待たせてたんだけど」
「ひとりで?」
「まさか!上のやつの秘書に見させてたさ。
でも、様子を見に行ったら欠伸いっぱいしてて。眠いなら先に家に」
「眠そうにはみえなかったんですよね?だから心配になって確認しにいらした」
「う。そ、そうだよ。…あいつがあんな欠伸連発とか、初めて見る」