リーダー・ウォーク
お買い物、芸術鑑賞、お土産。あと稟の職場見学。
母親にはややハードだったかもしれないがそれでも楽しく過ごし。
松宮はホテルだけでなくその中にあるレストランも予約してくれていて
夜6時に最上階へ向かう事になっている。
「お母さん、そんなワンピースどこに置いてたの」
「昔ね、同窓会に着ていくのに買ったの。それっきりだったけど。
どうかしら、変?大丈夫?」
「大丈夫だよ。ね、チワ丸ちゃん」
母親はシャワーを浴びてお化粧をし直して見たことのない服を着て。
大げさだなと思ったけれど、普段なら決して行けないようなグレードの
高いお店でかつ娘の交際相手を紹介されるのだから気合も入るか。
『今会社出た所。先に行って待っててくれ』
「はい」
稟も母親に促されシャワーを浴びて着替える。
髪を乾かして出てきたらちょうど携帯がなっていて、出たら松宮。
なんとかミーティングも無事に終えてまっすぐこちらへ来るらしい。
『チワ丸はどう?ちゃんと挨拶してた?』
「今お母さんの膝に甘えて抱っこせがんでます」
『そうか。ならいい。手土産とか、何か買っていくべき?』
「これ以上されちゃうと母が困るので来てくれるだけでいいです」
豪華な部屋と素敵な夕食、歓迎のシャンパン。
駆け出しトリマーの稟には到底無理な歓迎。
あの古い部屋に母を呼んで、ファミレスでご飯が精一杯。
あと、山ほどのお見合い写真をみせられて辟易したりして。
「稟?」
「さ、ご飯食べに行こう。崇央さんから先に行っててって」
「そうなの。なんだか緊張するわね」
「大丈夫だよ。チワ丸ちゃんはお留守番」
チワ丸は寂しそうに尻尾をふってうるうると見つめてくるけれど、
理解はしているのか追いすがったり怒ったりはしなかった。
母親を連れて部屋を出てエレベーターをあがり、最上階レストランへ。
何時も松宮がそうするように、自然と稟も名前を名乗り席へ案内される。
「慣れたもんねぇ」
「わからないからマネしてるだけ。何か飲み物だけでも先に頼もうか」
「じゃあ、お茶」
「お茶は食後にして、ワインとか?なんだろ、そういう系だよ」
またしても用意されていたのは夜景が見える静かないい席。
オロオロしっぱなしの母親を他所に、稟は携帯を確認する。
彼はもうそろそろホテルについているころだろうか。
「何だかちょっと見ない間に稟が別人になったみたい」
「自分でもそれは思う」
「本当はお母さんも一緒についていってあげたかったんだけどね。
でも、一人でも立派に頑張ってるものね。偉いわ稟は」
「まだ何も始まってないよ。これからだから」
「そう、でも音を上げないだけ貴方は凄いわ。お父さんなんて出ていった
翌日には泣きべそかいて帰ってくるんじゃないかって言ってた」
「それは流石に酷い」
でも確かに、駅を降りて高層ビルを見上げて。不安で泣きそうにはなった。
昔の話をしたりこれからの稟の仕事の話をしていたら時間なんてあっという間。
新しく注がれた飲み物をもらって母娘のんびりと待っていると。
「遅れて申し訳ありません、道が混んでいて」
松宮が申し訳なさそうに近づいてきて稟の隣に座る。
「あっあの、あっ……はい、松宮さん?」
突然の登場にキョトンとする母。
「はじめまして、松宮崇央と言います」
「は、はじめまして。稟の母です」
「入り口で見てもすぐわかりましたよ、稟にそっくりだ」
「はい。よく言われます」
「食事は注文した?してないならウェイターよぼうか」
「お願いします。私たちじゃメニュー読んでもよくわからなくて」
「分かった」