リーダー・ウォーク

「それはチワ丸ちゃんのシグナルかもしれないですね」
「何だ。何が言いたいだ?あいつ、何か不満なのか」
「欠伸を連発するって事は何か不安な事とか怖いことがあるのかも」
「不安な事。…やっぱりこんな時間までアイツを1人にしたからだな。
待ってろチワ丸。俺がずっと側に居てやるからなっ」

何時もと違うチワ丸の行動がよほど不安だったのだろう、
今にも飛び出して行きそうな松宮。
だけど、それじゃたぶんチワ丸にとって良いことにはならない。

チワ丸がそんな不安を抱くようになったのは……。

「待ってください。松宮様」
「何だ。まだ何かあんのか?」
「松宮様がつきっきりで居ることが当たり前になっている
チワ丸ちゃんが不安になるのは当然です」
「だから」
「そのままじゃお仕事に行っている間も不安にさせることになります」
「……、じゃあ、じゃあ連れてくよ!仕事場に!どうせ家の会社だし」
「それは、チワ丸ちゃんの自立には繋がりません。むしろダメにします」
「自立?ダメになる?チワ丸が?」
「立派な大人の男のことして、松宮様のパートナーとして。
今、チワ丸ちゃんは成長するときなんです」

後で先輩に聞いたがこの時、オーナーはすぐそばに居て
今にも倒れそうなくらいの真っ青な顔で話を聞いていたそうだ。

だけど、前から思っていたことだったので。

偉そうに言い切ってしまった。

「……」
「どうか。考えてみてください。チワ丸ちゃんとの適度な距離を」

稟はそう言って深く頭を下げる。

「だったら。…だったらあんたがチワ丸を見てくれ」
「……え?」

ずっと黙っているので稟は片付けに戻ろうと踵を返したら。

松宮が真面目な顔で言う。

「そこまで俺のやり方を批判するなら、手本を見せろって言ってんだ」
「ま、まってください。私」
「待たねえ」
「松宮様!松宮様!すみません!申し訳ございません!このコはまだ新人で」
「あんたとは話をしてねえから。いいよ、引っ込んでて」

すかさずオーナーが割って入るがあえなく撃沈。

「……わかりました。私がお預かりします」
「吉野さん!?」
「よし。じゃあ、とりあえず俺がくだらねぇ宴会に出てる間。頼むぞ」
「はい」

< 15 / 164 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop