リーダー・ウォーク

「もちは元気でしょうか」
「色々と連れ回してしまったから疲れちゃったのか今はぐっすり寝てます。
もしかしたら夜中に起きてくるかもしれないです、お腹すいて」
「どう食事を用意したらいいか教えてもらってもいいですか」
「はい。一通りのものは購入してきましたから一緒に説明しますね」
「領収証もください。貴方にも仕事があったのに邪魔をしてしまった。
確か、ペット保険も店では取り扱っていましたよね。入ることにします」
「ありがとうございます」

何時もよりかなり早い時間と聞いたがそれでも結構遅い時間に恭次は家に戻る。
稟はお泊りするつもりで松宮家に来ていたから彼の帰宅とともに顔を出した。
領収証を渡し、勝手に荷物を部屋に入れるわけにもいかないので廊下に置いていた
猫グッズを一緒に彼の部屋に運ぶ。

「いきなりだったのでスペースを考えないといけないな」
「本の山」

初めて入る恭次の部屋。広さは三男とそうかわらないと思う。
十分広くて、でも趣味のものがなく殆どが本と書類という
いかにもという想像通りの堅物なお部屋。そこに猫タワーとか
猫トイレとか猫のグッズが大量にあるのは違和感。
茶目っ気を出してあえて女性向けの可愛らしいデザインを選んだから余計。

「なるほど。これで食事を与えるわけか。トイレも清潔に、なるほど」

何も知らないからか恭次は怒ることもなく真面目に説明を聞く。
なにぶん育てるのはまだまだ小さい子猫。

「あの、差し出がましいかもしれませんが恭次さんだけでなく他の方もお仕事
忙しいでしょうし。せめて体がしっかり大きくなるまでは私がもちちゃんを
預かって面倒をみましょうか?チワ丸ちゃんも忙しい時は預かってましたし」
「いえ。もちを救うかどうか自分の意思で決めたことですから。僕には責任がある。
体がしっかりするまでは会社に連れて行くつもりです」
「え。だ、大丈夫なんですか?」
「トップはあの我儘で奔放な弟を許している兄です、文句は言わせません」
「なるほど」

それはそうだ。

「……とはいえ、実際命を預かるのは少し緊張しますね」
「でもあっという間に大人になりますからね。この小さい間は今だけ。
一口サイズの切り餅があっという間に立派な鏡餅になりますよ」
「それは縁起がいい」

緊張している稟を気遣ってか何時になく口調が柔らかい。
荷物も殆ど自分で解いてセッティングを済ませる。
もちは心地よさそうに専用のベッドでお休み中。

「あ。あと、首輪はまだ小さいので買ってません。
ネットや専門店で沢山種類がありますからまた見ておいてください」
「わかりました。もう大丈夫ですから、戻ってください。
崇央がチワ丸と怖い顔で睨んでましたから」
「はい」
「……今日は本当にありがとう、助かりました」
「いえいえ」

起こさないように静かに部屋を出て、長い廊下を歩いた先に。

「……」

チワ丸を抱っこしてこちらを睨んでいる彼氏さんが待っていた。

「なんならチワ丸ちゃんも一緒にお風呂入っちゃいますか!」

稟は気まずい空気を打破すべく、元気に声をかけてみる。

「チワ丸はもう寝る時間だ」
「ですよね」
「行こうか」
「はい」

これは根深い、かもしれない。
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