リーダー・ウォーク
言われた通りに適当な場所に荷物を置いて移動。
良いもの、とは先程汗だくになって組み立てていた家具だろうか。


「テーマはペットとの共同生活。まだ試作品なんだけど」
「棚の下がペット用の空間なんですね。可愛い」

それほど大きくはないシンプルな木製の棚。
下に丸い穴があってそこにチワ丸のベッドが入っていた。
人間の家具とペットのベッド。いい組み合わせ。
チワ丸は好奇心いっぱいに中に入って遊んでいる。

「簡単に出来ると思ったけど結構疲れるもんだな」
「ご自分で組み立てなくても業者に頼めば」
「売るからには自分で組み立てて理解しなきゃ部下にも話せないだろ」
「なるほど」
「それにいち早く組み立ててどんな感じか知りたかったし」
「チワ丸ちゃんも大喜びですね」
「ああ。シンプルさも良いが女に受けやすいカラバリにして」

話をしている途中だったが何処からかギィっときしむ音がして。
何事かと振り返ったら入り口ドアにいつの間にか出来ていた
ペット専用入り口から真っ白な侵入者。

その白い塊はちょろろろっと早足で移動してチワ丸のベッドへ。
彼は新作に夢中だったのでいつもの場所はあいていた。

「もちちゃん」
「このちび餅、大物だぞ。家を全部自分の縄張りだと思ってる。
チワ丸のベッドを我が物顔で使うんだ。生意気すぎて怒る気も失せた」
「チワ丸ちゃんは怒らないですか」
「ああ。チワ丸は心が広いからな。それに新しいベッドもある」
「そっちも何れ奪われそうだけど」
「言うな。……飼い主に文句言いたいけど。関わりたくないし」
「私が連れて行きます」
「でも」
「じゃあご自分で恭次さんに声かけてきます?」
「すぐ戻ってきて。まだ色々商品の説明とかしたいから」
「はい」

そっと寝ているもちを抱きかかえて部屋を出る。さっき恭次と
出ていったと思ったらお次はここ。彼女のルーティンなのかもしれない。
だから彼らは驚かない。

廊下に出て途中迷ったので家政婦さんに場所を聞いて恭次の部屋へ。

「ああ、もち。君はまた言いつけを守らなかったのか」
「崇央さんの部屋にいました。大物だからしょうがないですね」
「またか。チワ丸のベッドが好きなようで、同じ商品を買ったが
それでは駄目みたいだ」
「匂いとかユーズド感がすきなのかも」
「なるほど」

彼の部屋は相変わらず難しい本と忙しそうなデスク、pc。
でもその他はキャットタワー、猫トイレ、自動的に湧き出る飲水。
猫用の玩具もちらほら。

「もちちゃんのベッドはここだよ」

さっきまでこの豪邸内を散歩していたらしいから疲れていたのだろう。
可愛いピンクのフワフワベッドに寝かせると大人しく丸くなった。

「一つ質問をしてもいいだろうか」
「はい。どうぞ」
「猫用のハーネスがあると聞く。外に散歩はまだ考えてないんだが」
「商品としてはありますしそれでお外に散歩に行く猫ちゃんも居ますが
そこまで主流じゃない…ので、相談出来るほど情報が足りないです」
「いや、考えては居ないんだ。ただもし何かあった時に避難が必要になったら
ハーネスは必要ではないかと思って」
「ああ、たしかに。うちの店には取り扱いがないんですけど。
知り合いのお店には確かあったと思います。試着も出来たかと」
「名前を教えてもらってもいいですか」
「はい。あ。明日パンフレット貰ってきます」
「ありがとう」
「少しの間ここでお世話になるので持てる情報は何でも運んできます。
何でも仰ってください。ツテもあるので何とかなるはずですから」
「心強いな。でも、せっかく家に来たのだからゆっくり過ごしてください。
何かあればお店に聞きに行きますから」
「はい」
「僕が歓迎するというと変に思われそうなので控えますが。
あいつが何とかすると思うので、楽しんで」
「はい…あ、っと。電話がなってる。崇央さんだなぁもう」
「戻ってください」
「失礼します」

恥ずかしくなりながらも部屋を出て廊下で携帯を見る。
相手は父親だった。
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