リーダー・ウォーク
『稟。今、いいか』
「うん。どうかした?」
『あ、ああ。実は会社でお前の話をしてたんだ。
そしたら松宮さんの事を社長が知ってて』
「待ってお父さん私の個人情報ばらまいたのっ!?」
『子供の頃からしってる連中だぞ。それに、若い奴が来たら
お前に紹介したいとも思ってて…いや、そうじゃない。
稟、お前が付き合ってるっていうのは本当に松宮さんなのか?』
「来たらわかるよ。明日来るんでしょう?迎えに行くから」
『……止めておいた方がいいんじゃないか?』
「お父さん。大丈夫、私も恐る恐る付き合ってるから。
とりあえず明日会ってみてほしいの。それでわかるから」
『そうか。わかった。…眠れるかな』
「大丈夫」
ネット検索なんてものもしない両親。母親の話も聞いていたはずなのに、
父親はやっと松宮家について詳しく知ったらしい。昔からしってる社長さん。
悪い人じゃないけど、父を脅すような事を言ってないといいけど。
「お帰り」
「廊下で立って待っててくれるなんて優しいですね」
あるいは今まさに次兄の部屋へお迎えに上がろうとしてた所とか。
「俺はいつも優しいだろ」
「はい。松宮様はお優しいです」
「意地悪な言い方してないで試作品ちゃんと見てくれ」
一緒に部屋に戻るとチワ丸はまだ新しいベッドに夢中。
「可愛いデザインですよね。このサイズなら一人暮らし向けかな」
「ゆくゆくはシリーズ化してもっとデカイのも良いかなと思ってる」
「良いですね」
棚に近づいて穴の中を覗くと嬉しそうに寝転んでいるチワ丸。
どうやらここは自分のスペースだと察したらしい。賢い。
「チワ丸と出会わなきゃこんなの考えたりしなかったんだなと思うと変な感じ」
「ほんと。運命って分からないですね」
御曹司に甘やかされて我儘なわんこに育つこともなく。
元気はいっぱいだし悪戯も多いけど、チワ丸は素直ないい犬に育った。
それってやっぱり飼い主が根はいい人だからなのかもしれない。
見た目をどう繕ったって犬は人をちゃんとみているから。
「稟とずっと一緒に居るのもさ。……自分に向き合うのも、変な感じ」
「後は何が必要です?」
「そうだな。2人だけの時間をいかに増やすか」
「私とずっと2人で居ても飽きると思いますけど」
「それを試すんだろ」
「なるほど」
「冗談だったんだけど。ま、稟らしいか」
「明日は父が来ます。田舎のオジサンなのでどうか広い心で」
「そうだった。店の予約はしてあるから迎えに行く時間とか教えて」
「絶対ぜったい思ってる何倍も普通のオジサンなので」
「人の父親に何の期待するわけ?」
「ちなみに松宮家のお父様はどのような方なんでしょう?」
「子どもの頃はほとんど海外に居たから父親とかよく知らない。
一番上の奴に聞けば教えてくれると思うけど。
もうこの世に居ない人間の話なんて面白くないよ」
「……大事な人のご両親を知っておきたいと思うのは普通では」
「どれくらい大事かにもよる」
「すごくだいじ」
「嘘くさい」
「すぅごぉおおく大事」
「言い方の問題じゃない」
私の気持ち、は。
「……あ。チワ丸ちゃんが中でウンチしてるっ」
「え!?チワ丸!試作品はこれしか無いんだぞ」