リーダー・ウォーク

チワ丸は稟の働いているペットショップで松宮家に迎えられた子犬。

飼い主の手から離れ机に乗せられ最初はプルプルと震えていたが
稟が手を伸ばすと嬉しそうにしっぽを小刻みにふって抱きついてきた。

稟は注意深く体をチェック。

それが嬉しいのかさらにしっぽをふって足をジタバタ。

「食べなくなるその前後で何時もと違うことしました?」
「いや。べつに。……ただ、上の連中の知り合いって奴が家に来てて。
少し慌ただしくはなっていたが、チワ丸が怖がるといけないと思って
俺の部屋に連れて行っていた。俺も側に居たし」
「もしかしたらゴチソウ見ちゃったとか?それでそっちが気になってるとか…」
「飯は見ていないはずだが、匂いはあったかもしれない」

真面目な顔で考え込んでいる松宮に稟も一緒に考える。

何かきっかけになる物があるはず。だけど。

「どこかが異常というわけではなくて、食欲ってワンちゃんの成長する過程で
どうしてもぶつかる試練なんです」
「そうか。改善するにはどうしたら」
「病気とちがってワンちゃんごとに解決策は違います。色んな方法を試すしか」
「わかった。飯を見てくる。いつものコースでいい、それで終わったら見てくれ」
「はい」

チワ丸と豪華なキャリーを預かりトリミングルームへ入る。
どんな飼い主さんも初めての子犬はやはり心配になるもの。
よく相談をもちかけられて、
自分も調べて、分からなければ獣医の先生に聞いて。
出来る限り親身に相談にのるようにしている。

貴方は話に時間をかけ過ぎるの、もっとテキパキしてちょうだい

オーナーにはたまにそう言われ怒られるけれど。まだまだ先輩のように
うまくいかないトリミングに器用とは言いづらい自分。
少しでも飼い主さんと犬の事を知るためなら、溝を埋められるのなら
このスタンスで行こうと思っている。

貴方のその頑固さは誰に似たのかと上京する前によく母親に呆れられたものだ。



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