リーダー・ウォーク

「もしかしてあんたも飯まだ?」
「……」
「何だよ先に言えよ。同じものでいいか」

部屋に置き去りの伸びきったカップラーメンがお昼の予定だった。
待たせてしまった手前、私も食べてないですと言える空気でもなくて
モリモリご飯を食べているチワ丸を羨ましそうに見つめていたら
松宮が問いかける。彼もその直ぐ側でランチ中。

「すみません」
「ンなジロジロとチワ丸を見るなよ」
「……美味しそうで」
「そんなに苦労してのか。…まあ座れよ」

何時も飢えている人のように思われた気もするが、強ち間違ってもない。
食費は出来るだけ削って他のことに当てていたから。それも今後は
かなり改善されると思うけど、何かと物入りだから抑えるのは変わらない。

「そうだ。あの、井上さんにきちんとお礼を言えないままなんです。
もしまたお会いする機会があれば」
「何かしたの?アイツ」
「不動産屋さんまで連れて行ってくれてそのまま付き添ってくれたんです、けど」

貴方の指示なんですよね?なんでそんな不思議そうな顔?

「あれは俺が指示したんだ。お礼なら俺に言えよ」
「そ、それはもちろん感謝してます。けど…」
「けどなに?」

何だかちょっと不服そう。

「いいです。お会いしたら自分でお礼します」
「何だよそれ。……感じ悪いなぁ?チワ丸」
「どっちかって言うと感じ悪いのは松宮様ですけどね」
「俺の何処が悪いんだよ。部屋紹介してやって値引きだってしてやったのに」
「ですからそこは深く感謝してます」

事故物件で値引きでも立派な値引き。あんな素敵な部屋普通なら借りられない。

「面白くねえ」
「どうせ面白く無いです」
「……」
「……」
「あ、あの。ランチお持ちいたしました…」
「ああ、おいといて」

ただお礼が言いたかっただけなのに。
松宮が何で怒っているのかさっぱり分からない。
不機嫌な空気にランの店員さんもタジタジ。

「チワ丸ちゃんお腹いっぱいになったの?ん?撫でて欲しい?来る?」
「チワ丸。来るなら俺のとこだろ」
「分かるんですよ。コッチのほうがいいって。ねーチワ丸ちゃん」
「……俺のチワ丸」

意地悪を言うつもりはなかったのについ言ってしまったセリフ。
怒るかと思ったが、ショックだったようで黙ってしまった。

「気持ちが高ぶっているとワンちゃんも分かりますから。
ほら、深呼吸深呼吸」
「……こう?」

言われるままに深呼吸。

「はい。チワ丸ちゃん、抱っこしてくれるって」

ピリピリした空気が変わった所でチワ丸はおとなしく松宮の足元へ。
すぐに抱っこしてグリグリと撫で回されていた。

「……、感じ悪かった?俺」
「少し」
「そっか。…悪い」
「私はとても偉そうです。申し訳ありません」
「いいよ。いつものことだ。…なあ、チワ丸。お前の世話係は厳しいな」

そして優しく温かみのある微笑みをチワ丸と稟に向けた。

たぶん、無意識に。

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