リーダー・ウォーク
主導権は渡さないこと
稟の何気ない言葉に何故か黙りなんとも言えない微妙な顔をする松宮。
こんな空気になるような変なことを言ってしまったのかと焦るけれど。
どう記憶を思い返しても別段おかしくはない。はずだ。
「あの」
何か言ってください。そんな黙られると怖いです。
「あんた、俺とデートしたいとかじゃない……よなぁ?」
「な、なんで私が!?」
「だよな」
「何言ってるんですか。この前デートしてたじゃないですか」
セクシーなお姉さんとイチャイチャとくっついて歩いて行ったじゃないですか。
プロに任せたんじゃないかと思うほどお化粧もばっちりで香水もしっかりの。
貴方の隣に立っていても遜色のなく、見栄えの良い女性が。
「デートぉ?……この前ねえ」
「ほら。私が部屋を見つけた時に」
「……ああ。あれ?」
「そうそう」
そんな日も経ってないのによく忘れられるなこの人。
彼女大丈夫なんだろうかこんな扱いで。
稟にとってはそんなのは関係ない事だけど、ちょっと可哀想。
「別に。デートってほどじゃないけど。どうも遊ぶ約束してたらしくて。
覚えてないけど、遊べって煩いからさ。
俺忙しいのにちょっと付き合ってやっただけだから」
「ひどっ」
なんてロクデナシ発言だ。最低すぎる。
そしてそれを平気で他人にいうあたりが余計にたちが悪い。
それくらい彼にとって女性と遊ぶことは普通の事?意味は無い?
「向こうだってマジじゃないさ。ああいうのって常にいい物件探してんだから。
俺は三男だし、当主になる可能性はゼロだからな。ま、それでもその辺の
社長レベルよりはいい暮らしが出来るだろうけど?」
「そういうものなんですか?何だか夢が無いですね」
「あんたには夢があるんだろう?」
「はい」
「ああいう女連中にだって夢がある。それがセレブになることってだけ」
「……なるほど。夢の種類が違うだけ」
方向性の違いだけで根っこは似たようなものということ?
そう言われてしまうと何だかちょっと納得してしまう。
「そ。あんたが夢のために犬っころと格闘するように連中はエステだの整形だのに
膨大に金と時間をかけるわけだ。男ってのは若くて見た目がいい女が好きだからな」
「…松宮様も?」
「そうだな。パーティやらちょっと気取った場所へ行くにはそういうお飾りが
あったほうが見栄えがよくて楽でいいからな」
やっぱりパーティや付き合い何てセレブさんたちになると綺麗じゃないとダメなのか。
参加する予定は一切無いけれど、大変なところなのだということはよく分かった。
そして、自分はそんな場所へは絶対に行かないし行けないということも。