リーダー・ウォーク
オモチャの与えすぎ注意
私はただの世話係でいいんだよね?
何だか思っているものと違うものになりつつあるような気がしてきた。
微妙な気持ちになりつつもケーキを食べてチワ丸のもとへ戻り無事帰宅。
何時もならさり際寂しそうにコッチを見てしっぽを振ってくれるチワ丸だけど
疲れているのかキャリーの中でおとなしく座っていた。
「今日はありがとうございました」
「携帯、なんとかしろよ」
「はい…」
そうだ。すぐに返事をしなくて不機嫌になったんだっけ。忘れてた。
車が去って行き、深い溜息。
部屋にはいるとダンボールがぽつんとあってこざっぱりした部屋。
台所には汁がすっかりなくなって伸びきったカップラーメン。
魔法がとけた後ってなんでこんな切ない気持ちになるのだろうか。
『そっちはどう?無理してない?何時でも戻ってきていいからね』
「大丈夫だよ。なんとかやっていけてるから」
『そう?貴方が電話なんかしてくるから、てっきりもう帰ってくるのかと思ったわ』
今年に入って初めての電話。あまり心配はかけたくないのと弱音を吐かないために
極力電話はしないようにしてきたのに。ついしてしまった。さすが母親、鋭い。けど
今ここで帰る選択肢は稟にはない。
「実は引っ越しするんだ。結構いい部屋だから、今度見に来て」
『そうなの。そうね。…一度くらいは行ってみようかしらね、お父さんに話してみる』
「うん」
『稟。…何時でも戻ってきていいからね。犬のカットなんて家でもできるんだから』
「それは」
『お父さんが退職金をつぎ込んで部屋を増設するって言ってるの』
「いいよそんな。まだそこまで上手くないし」
『都会は魅力的に見えて怖い所もたくさんあるの。十分気をつけてね、お母さんたちは
すぐには助けに行けないんだからね?ちゃんと自分の身は守るのよ?』
「わかってるって。大丈夫から」
まさかトリマーだけじゃ生活が苦しくセレブの犬の世話係で稼いでいるなんて言えない。
それこそ帰って来いとなるだろうから、心配してくれるのはありがたいことだけど。
携帯をしまい、適当にころんと寝転ぶ。そのまま気づいたら眠ってしまっていた。
「お久しぶりです」
「井上さん!どうも、あの時はありがとうございました」
「いえいえ。あれは崇央様の指示に従ったことなので。お礼なら崇央様に」
それからしばらくしてお礼が言いたいと思っていた秘書が来店。
稟は若干テンション高めに近づいて深々と頭を下げる。
「それはいいんです。会う度にお礼言ってますから」
「ははは。…あ、そうでした。今日はその崇央様の使いで来ました」
「チワ丸ちゃんのご飯ですか?」
「いえ。オモチャをあなたに選んで頂いて買ってくるようにと」
「私が選んじゃっていいんでしょうか」
「ランで遊ぶようと、部屋で遊ぶものと、その他なんでもいいとのこと」
「予算は?」
「崇央様がチワ丸に予算なんてものを設定すると?」
「…ですよね」