リーダー・ウォーク

ご機嫌にお店を出て行った秘書さん。それ以降ぱったりと松宮家との繋がりは
なくなり、稟も日々の生活に追われあっという間に部屋を出る日がやってきた。

段ボール箱2つとリュックとポーチに全財産を詰め込む。ランクが少しだけ上がり
生活にもゆとりが出てくる予定。
2年間お世話になった部屋に最後のあいさつをしていざ新居へ。

新居への行き方は不動産屋の人に簡単な地図をもらったのでなんとかなる。
おそらく相手は車で行くのだろうと思っているだろうが、そんな予算はない。

車だと15分の距離も荷物を背負っての歩きだと1時間30分ほどかかった。
若干道に迷ってしまったのも痛かった。


「は…はぁああ…疲れたぁあ……だめだ…足がやばい」

ドキドキしながら玄関のオートロックを解除してエレベーターに乗り込み
頂いていた鍵で部屋に入ったら荷物を投げ捨てるようにその辺において
フローリングに滑りこむように倒れこんだ。

まだまだ行けると思ったけど、これはやっぱりタクシーとか呼ぶべきだった。


「動けないとか言うから心配しただろ」
「……」

何時間ほどそのまま倒れこんでいたのか、ポーチの中の携帯が震える音がして
でも立ち上がる気力もなく何とかほふく前進で手を伸ばして携帯を取る。
メールしてきたのは松宮。でも返事をする気力も立ち上がる気力もない。

疲れてもう今日は動けないのでまた明日メールしますね、ごめんなさい。

そう返したら30分でここに来た。玄関に出るのも辛いのに。

「そんな倒れこむような怪我したのか。それとも病気か?もしかして犬に噛まれたのか?」

松宮の手には小さい袋とチワ丸の入っているキャリー。
だけど稟は玄関をあけるだけで精一杯ですぐにフローリングに横になる。
見た目なんかもうこの際どうでもいいです。

「引っ越しが…疲れただけです」
「疲れるも何もこんなしょっぱい荷物でどう疲れるんだよ。まだ開けてもねえのに」
「……持ってここまで来たら疲れた」
「は?馬鹿かあんた」

言うと思った。でも、しょうがないじゃない、タクシー代も馬鹿にならないんだから。

「……どうせ馬鹿です」
「電話したら来てやったのに」
「そんな事」
「まあ、あんたならしないだろうけどさ。…明日も仕事なんだろ?ひびくんじゃねえか」
「……」
「明日は休めよ」
「でも寝たらなんとか」
「そんな若くもねえだろ。運動も普段からしてるようには見えないし、明日はもっと辛くなるぞ」
「……」

どうせ運動不足ですよ。どうせ筋肉痛は遅れてやってきますよ。
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