リーダー・ウォーク
荷物を持って歩かなくていいというのはこんなにも気が楽になるのか。
体はまだだるいけれど、布団を無事に購入。あとカーテンも一緒に。
他にも普段なら持って帰るのが面倒だからと買わないものも買って。
車に詰め込んでみると結構な荷物になっていた。
けど、持って歩くわけじゃないからまだ大丈夫。
なんならもっと買ってもいいかもしれない。部屋はまだ広い。
「何処へ行ったのかと思ったらこんな所に居たのか」
「恭次様」
2つめのお店を出て荷物を運んだ所で突然声をかけてきたスーツ姿の人。
稟を見て、というよりは側に居た井上を見て近づいてきた様子だけど。
「買い物とは悠長だな?お前まであの怠け者に感化されてきたか?」
「これは」
何だかとってもピリピリしていてメガネの奥の目が怒っていて。
下手なことを言ったら怒鳴られそうで、とにかく怖くて仕方ない。
稟は車の陰に隠れて様子を伺う。
「せっかくマトモに働く気になったかと思えば今日は何も言わずいきなり飛び出して。
松宮家の人間としての自覚があの男には生まれつき無いんだ」
「恭次様、今の崇央様は昔とは違います。もう少しだけ、見守って頂いて」
「十分見守ってきた。お前ももうあいつには期待するなバカを見るぞ」
「……」
目上の相手のようで井上は思うことがありそうだが言えずに押し黙る。
「それに、最近は小うるさい犬とよくわからん女にご執心らしいじゃないか。
あの飽き性が何時まで続くやら。どうせすぐ捨てることになるんだ。
そうなったら後片付けはお前がしろ、面倒はごめんだからな」
「恭次様……っ」
その瞬間、
カチン、と稟の中の何かがキレた音がした。
そして気づいたら恭次様と呼ばれた男の前に歩いて行って。
「な、なんだ君は」
「そのよくわからん女ですがなにか!?」
「……い、いや」
今にも殴りかかりそうな勢いの稟に恭次は思わず後ずさる。
「正式には新人トリマーしております吉野稟ともうします!私の事はどうでもいい!
ただの犬じゃなくてチワ丸ちゃんです!ちょっとでもご飯食べなきゃ心配するし仕事が
忙しくても広い所で遊ばせてあげたいってランへ連れて行んです!
松宮様にとっては大事な家族なんです!そこは本気なんです真摯なんです!」
思うままに叫ぶだけ叫んだら今度は感極まってきて涙がぽろぽろ出てきた。
そんなつもりじゃないのに。これじゃ変な人扱いされてしまうから、
何か言わないといけないのに。
だけど次に続かなくて。
「恭次。若いお嬢さんを泣かせるのは良くないと思うよ?」
「兄さん!ち、違いますよ。この人が勝手に叫んで泣き出しただけで」
「井上君。ここでは何だし、少し移動しようと思うんだが。どうだろうね?」
「はいっ」