リーダー・ウォーク
「なあ、契約が必要なんだろう。すぐしてくれ」
「はい。ではスタッフを呼んできますね」
「あんたは違うのか」
「私はトリミングスタッフでして。販売担当を呼んで参ります」
「……そうなのか。なあ、こいつもトリミングは必要か?」
「そうですね。シャンプーはしてあげてください」
「わかった。また相談をしたい。いいか」
「はい。何でもご相談ください」
と、いつもの様に稟は笑顔で彼に言った。
その言葉に嘘はないし、困っている時は自分に出来ることを何でもしたい。
その時は彼がどういう人物かわかっていなくて、
身なりがいいから銀行マンとかかな?くらいの気持ちしかなかった。
「松宮ってあの松宮!?」
「知ってるんですか?」
「日本でも有数の大財閥じゃない。知らないの?あのでっかいビル!」
「そ、そうなんですね。知りませんでした」
後で契約を終えた販売員さんが変な声を上げる。
どうやら松宮という人の家は代々ものすごいお金持ちということらしい。
それがコミコミで8万円のチワワをかっていった。
大げさに驚いて居る周囲に対して稟は特に何も思わないといった様子。
「ああいうのはセレブ犬御用達のブリーダーとかかと思ってた」
「一目惚れしちゃったんですね。確かにあの子凄く可愛いし、いいこだし」
「何を呑気なこと言ってるの。問題はこれからよ?」
「え?」
「松宮様のご機嫌を損ねたりあのチワワになにかったらうちの会社なんか!」
「……」
「トリミングはどうか別の高級サロンにでも行ってもらいたいわ…」
と、言っていたのだけど。
結局、稟を頼ってペットショップ内のトリミングに通っている。
オーナーも販売員さんも毎回ヒヤヒヤ。
なにせ彼は稟を指名。稟はまだカットチェックが必要な新人。
何かあったら不味いから、気をつけてねと何度も念を押された。