リーダー・ウォーク

松宮が去ってから暫くはチワ丸をリビングに放して遊ばせていた稟。
事前にオモチャを持ってきていたしクッションもあるし専用のお皿もご飯もある。
チワ丸にとってここは世話係つきの別荘といっても過言ではないだろう。

「チワちゃん。お散歩ちょっとだけしてこっか」

お昼ごはんも食べて天気もいいし、ちょっとくらいなら散歩もいいだろう。
あとついでにちょっと遠いけれどコインランドリーも発見していてそこを利用したい
とも思っている。
これが松宮に知られたら縄文人以下の扱いを受けるのは必至なので言わない。

リュックに必要な物を詰め込んで首輪をしたチワ丸を抱っこしていざ外へ。


今日は本当におさんぽ日和だ。


『申し訳ありません、今大丈夫でしょうか?』
「え。ええ。大丈夫ですけど…どうかしました?」

いい気分でマンションから1歩踏み込んだら携帯が震えてびっくりした。
チワ丸は駈け出したそうに稟を見つめているが隅っこへ移動し電話を取る。
相手は井上で、非常に申し訳なさそうにしている。

『崇央様から至急貴方様の部屋に冷蔵庫を送れと言われまして…』
「あれマジな話だったんですね」
『ええ。マジなんです。ですが、冷蔵庫といっても種類が豊富なのでご相談をすべきかと』
「ただビールがぬるくなるから冷やして欲しいってだけなんです。適当にコンビニで氷でも
買ってきて入れたらいいんですよビールくらいで贅沢なんだから」
『……では、単身用のコンパクトなものでよろしいでしょうか』
「そうですね。また連絡をいただけますか?今からチワ丸ちゃんのお散歩なんです」

あとついでに洗濯をしにコインランドリーへも行くんです。

『もしかして、コインランドリーへ行こうと思っていませんか?』
「え!?な、なんでわかったんですか!?」
『チワ丸の散歩にしてはかなりの大荷物に見えますので』
「見えます!?井上さんもしかして…霊能力者!?」
『ご期待に添えず申し訳ございませんが、すぐ側に居ります』
「ですよね」
「はい」

コッチに向かって申し訳無さそうに歩いてくる井上が見える。
稟は携帯をしまう。チワ丸は嬉しそうに彼の元へ駆け寄ろうとする。
どうやら井上にもなついているようだ。
これだけ松宮の世話をさせられていたら接する機会も多いし当然か。

「秘書って大変ですね、お仕事もあるのにこんな洗濯機とか冷蔵庫とか」
「崇央様のご機嫌が悪くなると兄弟の仲もどんどん悪くなって悪循環に陥りますので。
こうして、吉野様のお世話をすることは会社のためでもあるのです」
「……そんなに仲悪いんですか?」
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