リーダー・ウォーク
お仕事トーク

話題をかえよう。急いで替えよう。

お店に入ってからも松宮は苛ついている顔で席についた。
人は多いけれど座席はきちんと隔離されていて若干静かになる。
美味しそうなお好みを注文をして焼いてもらっているのを待つ間、

このどうしようもないいたたまれない空気だけが支配する。

「そ、そうだ。崇央さんは役職にはついてないんですね。お兄さんが社長だし…
てっきり常務とか専務とか凄い肩書がついてると思ってました」
「帰国した時にどれかなれって言われたけどそういうの好きじゃないから断った。
別に金には不自由してないし、松宮家の三男ってだけでそれなりに体面は保てるし。
定時に帰れないわ会議は毎回あるは責任は重たいわ。…あんなの上の連中の仕事」
「企画部長も忙しそうですよね」
「うちは色んなもんに手だしてるからな。その中でも華やかでそれなりに楽しい。
出会いも多いからな。毎日毎日飽きもせず同じ人間としか接しないのはつまらない」
「じゃあ私なんか」

何も特出したところないし。つまらないんじゃ。

「あんたは会う度に色んな顔をするから楽しい。いろんなことを俺に教えてくれる。
こんな刹那的な考えしかできない俺にはあんたみたいな女が必要なんだ」
「そうでもないんじゃないですか?」
「なんだ?まだ俺と話し合いがしたいか?」
「…ビール飲みたいなノンアルコールで」

駄目だ今は何を言っても自分の首を締め付ける。

「そういや、今日はあんたが俺を誘ったんだったな。もしかしてどっか予約してた?」
「忙しくて無理かもしれないと思って予約はしてなかったんですけど、先輩にいい店を
教えてもらったんです。小型のワンちゃんなら大丈夫なカフェ。夕飯もいけるって」
「じゃあ早速明日行こう。チワ丸も喜ぶだろうな」
「ワンちゃんプレートもあるそうですから。あ。誕生日だとワンちゃんケーキも」
「へえ。悪くない。っても、あいつの誕生日は来年だけどな」
「崇央さんの誕生日は?」
「俺?俺は、12月」
「そっか。まだ遠いですね」
「プレゼントはあんたと暖かい島に旅行でいい」
「チワ丸ちゃん置いていけないでしょ?もう、気が早いな…」

というかサラッとまた旅行とかしかも海外とか。こっちはパスポート持ってないし。
そんな旅行をするお金なんてないです。流石に全部出してくれなんて言えないし。

「そういや、あんた幾つ?アラサーだとは聞いてたけど幅がひろいだろ」
「女性に歳をききますか」
「いいだろ?別にあんたが40でも50でも抱いてやるから」
「そ、そういう基準?…こ、これでもまだ27歳です。けど」
「あれ、思ってたより若いんだな」
「どうせ老けてます」
「俺、35だ。12月で6だけどな」
「え。そうなんですか?若く見えますね」

年上だろうとは思ってたけど、思いの外離れてた。

「そっか。そんな年下だったか。じゃああんまり猶予ねえかな」
「え?何のことですか?猶予?」
「いや。なんでもない」

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