リーダー・ウォーク

美人さんぞろいの秘書課を通過してひときわ重厚なドアをくぐり
知らない人でも社長室だとすぐにピンと来るようなお部屋に到着。

デスクに来客用ソファにあと観葉植物とか高そうな絵画とか。
テレビまで置いてあってちょっとしたお部屋みたいだ。
大きな窓はオフィス街が一望できて暫くぼんやり眺めていたい。

「飲み物は何がいいかな。コーヒーか紅茶か緑茶か」
「緑茶で」

ソファに座ってソワソワしていたら飲み物を聞かれて、返事をして。

「こうして座っているとなんだか面接でもするみたいだ」
「そうですね。でも、私じゃとてもこんな大きな会社」
「地元ではOLさんをしてたって聞いたけど」
「はい。でもほんとこじんまりとした田舎の会社です」
「やることは一緒だよ。まあ、うちは取り扱う商品も多岐に渡るしそれに伴う部署も
動かす人間も多いからね。彼らといかにスムーズな連携を取り迅速に動けるか。
人間同士だから中々難しいとは思うけど、その分やりがいはあると思うよ」
「自分のスキルだけじゃなくて人を知るのも大事な仕事ですね」
「そうだよ。…はは、何だか本当に面接みたいだなぁ」

面接にしてはあまり緊張感がなく談笑に近いけれど。なんて会話をしていたら
ドアがノックされて、美味しそうなお茶とお菓子を持って秘書さんらしき女性が入ってくる。
こっちが緊張するくらいの綺麗なお作法でお茶をセッティングしてくれて、
用事を終えると静かに部屋を出て行った。

自分も昔会社で偉いさんにお茶を出したことはあったが全然違う。
背筋がピンとしててお化粧も綺麗で、女性らしい仕草って憧れるなぁ。

「……私何に来たんだっけ。あ。崇央さんに会いにきたんだ」
「だとは思ったけど。彼は今会議中だから、昼くらいまではかかると思うよ」
「ですよね。素敵な社長室見学が出来たのでお茶を頂いたら帰ります」
「まあまあ。そう言わずせっかく来てくれたんだから。会社見学をしていってください」
「い、いえ。本当にいいんです、私はトリマーだし」
「貴方には色々と期待をしているんだ。けど流石に僕が付き合うわけにはいかないか」
「だからその」
「ああ、ちょうどいいのが居た」

こちらのお兄さんも比較的人の話を聞かないタイプだと思います。

「トリマーは、辞めたんですか?」
「辞めてないです。今日は崇央さんに会いに来て」
「あいつは会議……、ああ、そういう」
「……すいません」

まったりとお茶を頂いて、見学ツアーには恭次が付き合ってくれる。
彼も暇なはずないのに社長命令とでも取ったのだろうか大人しく歩いている。

「いいえ。どうせあの馬鹿がろくに予定も考えず貴方を呼んだんでしょう」
「……」
「この家の人間は相手の気持ちや予定を考慮しない所がある。貴方も何時か苦労するだろう」
「恭次さんの気持ち私すごくわかります」
「……ご愁傷様です」

この人はわかってるんだ。そして諦めてるんだ。慣れともいうのだろうか。
私も何時かこの心境になるのかもしれない。

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