リーダー・ウォーク

自分の未来の「もしも」を想像したことは誰にだってあるはずだ。

もし都会の大学に進学をきめて上京してそのまま就職していたら?
もしこんな知名度も抜群な大きな会社のOLとして働けたとしたら?
もし気の合う同僚とかあるいは飲み会に参加した先でいい出会いがあったら?

30歳手前で結婚相手もなくて貯金も上京する資金でほぼ消えたりしなくて

しっかりと貯蓄をしながらよさ気な人を見つけて都会ぐらしが出来たかもしれない。

全ては「もしも」であり、現実ではなくて妄想から目覚めるとちょっとため息。

「疲れましたか。休憩しましょう」
「あ。い、いえ。大丈夫です立ち仕事なのでちょっと歩くくらい全ッ然」
「ヒールで仕事はしないでしょう?4階にカフェがありますから」

ちょっとしんみりしてしまった稟を気遣ってか恭次がカフェに連れて来てくれた。
本来なら見ることが出来ない会社の中を見学できて楽しいと思っていたのに。
いつの間にかネガティブな事を考えてしまって、落ち込んでしまうなんて。

トリマーの仕事を選んだのは間違いじゃない。はずなのに。

「あ。崇央さんからメールだ」
「どうやら終わったようですね。じゃあ、俺は行きます。
一緒だとまた煩いでしょうか」

カフェで一息ついていたら携帯が震えて、チェックしたら崇央の名前。
それをみはからって恭次は会計だけ済ませ去っていった。
メールの返信をして彼が来るのを待つ稟。

「何時から来るの?」
「え?」

ぼんやり外を眺めていたらいきなり隣の席に座ってくる男。
社員証を首にさげているからここの会社の人みたいだけど。
ちらっと時計をみたらお昼の時間になったばかり。

「君、中途で入った子でしょ?あ、もしかして派遣?」
「私は」
「でも専務が直々に案内するって事はあれかな、専属の秘書さんかな?」
「違います」
「まあまあ。そう緊張しないで、俺が色々とアドバイスするから。ここ人数多いし
途中から入ると知り合いも居なくて寂しいだろうし、友達は多いほうがいいって」

男は気軽に稟の肩に触れてくるけれど、いきなりすぎて反応が出来ない。
唖然としていると言ってもいいかも。

「営業三課の山代君じゃないか。会議が終わってすぐにこんな所で何をしてる?」
「あ、ど、どうも。松宮企画部長…」
「彼女に何か用事でもあるのか?俺もあるんだが、ああ。いいよ君から先にどうぞ」
「……いえ。もう終わりましたから、失礼します」

松宮がよほど怖いのだろうか、男は張り付いた笑みを浮かべ逃げるように去っていく。
残る稟と松宮。彼は怒っているのか分からないが真面目な顔で稟を見つめていて。

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