天に見えるは、月
「――しかし香凛ちゃんって、結構やるもんだねぇ」
翌日の昼休み。香凛はまた弓削に誘われ、ふたりで社食に来ていた。弓削は今日も唐揚げ定食を頼み、唐揚げをおいしそうに頬張りながら心底感心したような声を上げた。
「仕事を早く終わらせたことが、ですか?」
負けず嫌いを発揮して、昨日は三時間ほど残業はしたものの、その日のうちにモンドから与えられた仕事すべてを終わらせてやった。
弓削は唐揚げをごくりと飲み込んでから、にかっと笑う。
「まあ、それもあるけどさ」
この人は一体なにを考えているのか。いつの間にか『香凛ちゃん』と名前で、しかもちゃんづけで呼ばれていることにも香凛は戸惑いをおぼえていた。
「香凛ちゃんはあのモンドに『ご苦労』って言わせたんだよ!? 驚きだよほんと」
確かに、朝一でモンドに書類やらを提出した時、彼は『ご苦労』と最後に言っていた。それがそんなに驚くことなんだろうか。
「普通のことじゃないんですか……?」
香凛は首を傾げる。
「モンドが普通の人だと思う?」
「……思いません」
「でしょ」
弓削はなぜか得意げだ。
「でも……いくらモンドがああいう人だからって、多少は部下にねぎらいの言葉をかけることもあるんじゃないですか?」
そうであってほしい、という期待も込めて、香凛は弓削に問いかけた。