天に見えるは、月
「んー、どうだろね。少なくとも僕はモンドが課長になってから、人にねぎらいの言葉を掛けているところなんて一度も見たことなかったけどね」
嘘でしょ。そんな言葉が香凛の脳裏に浮かんだが、声には出さなかった。いや、出せなかったというのが正しい。
「だから驚いたんだよ。でもそれってさー……」
絶句したまま固まっていると、弓削は満面の笑みを浮かべた。
「モンドが香凛ちゃんの仕事ぶりを認めたってことなんじゃないかな」
「……えっ?」
昨日、休憩スペースでモンドに会った時のことを思い出す。
『俺に啖呵を切った割にはたいしたことないな』
心底バカにしている態度だったけど、もしかしてわざとけしかけた……なんてことはないか。都合よく考えてしまったな、と香凛はなんとなく恥ずかしくなる。
「……そうだったらいいんですけどね」
香凛は少し緩んだ口元に気づかれないように、日替わり定食の豚の生姜焼きを齧った。