天に見えるは、月
現実は想像よりも悪夢
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自分の、自分だけの、居場所が欲しい。
自分を心から必要としてくれるような、そんな温かい場所に居たい。
いつからそんなふうに思うようになったのか、はっきりした時期はわからない。
でも、理由はわかっている。家に居場所がなかったからだ。
表向き、うちは誰からも羨ましがられるような仲の良い家族だった。でもそれはあくまで演技。そんな虚構を演じれば演じるほど、心は空虚と化していく。
居場所を提供してくれるものに縋ってしまうのは、大きな心の空洞が空になるのが怖いから。たとえそれが幻影だったとしても、満たされているのなら空にしたくはない。
勇作と会うのは一ヶ月ぶりだった。ゴールデンウィークを目の前に、最近ではめずらしく向こうから連絡してきた。
とはいえ、相変わらず勇作との関係がいい状態ではないことは、今されている行為からもわかる。
適当。しかも、この間よりぞんざいに扱われている気がする。
「気持ちいい?」
いいわけがない。単なる性欲のはけ口にされているようなされ方で、辛くなってくる。
「ん……」
でもそんなことは言えるはずもなく、香凛は感じている“ような”声に嘘を紛らせた。
「――これから、しばらく会えないと思う。ちょっと、仕事が忙しくてさ」
ゴールデンウィークの予定を聞く前に、香凛は勇作からそう告げられた。
実夏からは、経理の繁忙期もそろそろ終わりだと聞いている。仕事が忙しいという理由じゃ疑われるだろうということも、もはやこの人の頭にはないのだろう。
「寂しい思いをさせてごめんな」
勇作に髪を撫でられながら、香凛はその行為とはうらはらに、まったく甘さのないことを考えていた。